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技術士試験 論文例「Ⅲ-1カーボンニュートラルを目指した開発」

問題

機械部門 選択Ⅲ

気候変動の影響が世界中で深刻化している中、「カーボンニュートラル」は、各国、各企業が取り組むべき重要なテーマである。特に、機械設計の分野では、製品の開発・製造からライフサイクル全般において、CO2 排出の削減とエネルギー効率の向上が求められている。カーボンニュートラルを実現するため、機械設計では、省エネルギー、再生可能エネルギーの導入、材料の選定、製造プロセスの改善など、多岐にわたる改革が必要である。これらの取り組みにより、機械の性能の向上と並行して、環境への影響を最小限に抑えることができる。また、エネルギー消費を抑える設計、リサイクル性の高い材料の選定、製造過程でのエネルギー効率化などは、機械設計者にとって重要な考慮ポイントとなる。

上記を踏まえ、以下の設問に答えよ。

(1)カーボンニュートラル実現を目指した機械製品の例を 1 つ挙げ,その技術開発について,機械設計者として解決すべき課題を多面的に抽出し述べよ。

(2)(1)で挙げた課題からあなたが重要と考えるものを 1 つ選び,機械設計の観点から,課題解決のための具体的な技術的提案を述べよ。

(3)(2)の技術的提案について想定されるリスクとその対策について専門技術を含めて述べよ。

論文例

1.カーボンニュートラル実現のための製品設計課題

 具体例として自身の専門分野の射出成型機を挙げる。

1.1.軽量化

 製品重量が大きいと加工電力、素材製造、稼働電力、輸送エネルギーが増加するためCO2排出量が増える。

射出成形機は、大型の機械は100トンを超えるため軽量化することでCO2排出の低減につながる。

1.2.輸送性の向上

 射出成形機は、機械本体導入時以外にも機械保守部品や金型の交換、補修時に製品の輸送が生じる。輸送の効率向上のための設計を行うことでCO2排出の低減につながる。コンテナサイズやトラックでの混載のための部品梱包標準化、高密度に積載するための分解組み立て性の向上などが射出成形機においての課題である。

1.3.長寿命化

 射出成形機は一般に耐用年数8年だが機能に問題がなければこれを超えて使用される。また、リユース市場も活況である。長期間使用可能な機械を造ることで新しい機械を生産するためのCO2排出量が削減できる。

このため、機械の長寿命化が課題である。

2.最重要課題と解決のための技術的提案

 軽量化を最重要課題とする。理由は、軽量化が実現されることで生産にかかわるCO2排出のみならず輸送エネルギーや廃棄コストの低下などサプライチェーン全体でのCO2排出の低減につながるからである。以下に解決策を述べる。

2.1.材料の変更

 使用している材料を低密度なものに変更する。射出成形機では、鋳物部品が多用されているので代替え材料としてミネラルキャスティング(以下、MiCa)を採用する。MiCaの密度は鋳物と比べ1/3程度であり製造工程や廃棄工程でも環境負荷が比較的小さい。弾性係数が小さく引張荷重に弱いので全箇所の適用は困難であるが、圧縮には比較的強いため型締め部の固定盤などの土台に採用することで軽量化を行う。

2.2.形状の体積最小化

荷重条件に対する形状の最適化を行い各部品の体積最小化を行う。多用されている鋳物部品についてはトポロジー最適化手法を用いる。型締め部品のたわみはバリなどの成形不具合につながるため型開力の生じる位置など解析境界条件は十分考慮する。

2.3.発生応力の低下

 構造にかかる負荷を小さくし発生応力を低減させることで部品の必要な肉厚を低減させ軽量化を図る。射出成形機の型締力は、固定盤と可動盤が金型を介して全面接地した時の最小型締力とキャビティ内樹脂圧×成形品投影面積の型開力の和である。可動盤はガイドに習い移動するためガイドのガタが大きいと固定盤との平行が崩れ全面接地に大きな力が必要になる。このため、ガイドのガタを小さくし発生応力を小さくする。また、キャビティ内樹脂圧はゲートからの流動長が長いほどゲート付近の樹脂圧が高くなる。このため、ゲート数を複数にする多点ゲート方式を採用することで樹脂圧の低下を図る。これにより型開力を小さくし部品への発生応力を低減する。

3.提案についてのリスクとその対策

3.1.リスク:ウエルドライン(以下、WL)の発生

 多点ゲートの採用により成形品や成形条件によって新たな成形不具合が生じる可能性がある。特に流動樹脂がぶつかった際に生じるWLの発生が考えられる。

3.2.1.対応:金型温度の上昇

 WLは、加熱された樹脂が金型のなかに流れていく間に熱を奪われ冷えてしまうことが原因で発生する。このため、樹脂の温度や金型の温度を今よりも高く設定し、樹脂が温度を下げずに流れられるようにする。樹脂が固まる時間を遅らせることでウエルドラインができるリスクが軽減される。

3.2.2.対応:ゲートの充填タイミングの調整

 WLは、温度の下がった樹脂が合流し溶け合わないことで生じる。このためまずゲートaから充填を開始し樹脂がゲートbまで流れたタイミングでゲートbの充填を開始することで冷えた樹脂の合流が生じない充填にする。これによりリスクが軽減される。

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