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技術士の仕事について現役技術士に聞きました| 酒本昌子さんのケース

日本のものづくりを支える「技術士」という資格。

聞いたことはあっても、どのようなキャリアや挑戦が待っているのか、詳しく知りたい方も多いのではないでしょうか。

今回は、異分野から製造業に飛び込み、技術士として活躍する現役エンジニアの酒本昌子さんにインタビューしました。

酒本さんが歩んできたキャリアの転向や資格取得への挑戦、独立に向けた準備など、実体験に基づいたリアルな声は、技術士を目指す方にとっても多くの学びがあるはずです。日本の製造業をより強くしたいという熱い思いと、技術士としての仕事の舞台裏を、ぜひ最後までお楽しみください。


まずは、単な自己紹介をお願いいたします。

製造業のエンジニアとして、電気加工、化学反応を用いた加工、研削、研磨、溶接などの加工技術や新規開発、生産性向上、品質管理、ライン設計、生産設計などの業務を行って参りました。

会社での副業が認められていますので、自身の能力向上やキャリアアップを考え、講師業や、監査・検査、補助金取得のアドバイスなども行っております。

自身は、元々大学は工学系ではなく、生物や遺伝子について学んでいました。昆虫が好きで、生き物の生態を知りたいと思い、生命系の学科に進んだのですが、実験で動物や生き物を殺すことができず、悩んだ時に、父が、ものづくりの企業でブルーカラーとして勤めており、ご飯の時などにものづくりのすごさ、楽しさを聞いていたので、畑違いの業界に就職することにしました。

あまりにも畑違いだったことも有り、4回生の時は1回生に交じり、工学部の授業を聴講するなどして知識は得るようにしていたのですが、体系的な学びが出来ておらず、自分のやる気を出すために、期間を決めてチャレンジできる技術士を受験する事にしました。

また、日本の製造業を強くしたい、何か自分ができることはないかを考えており、技術士は、公益の確保で社会貢献をするイメージがありました

技術士の部門を教えてください。

総合監理部門(機械、経営工学)、機械、金属、経営工学、衛生工学

技術士を取得した時期を教えてください。

技術士補2012年(機械)、経営工学(2017年)、総合監理部門(経営工学)及び機械(2019年)、金属(2021年)、総合監理部門(機械)及び衛生工学(2024年)

何回目の試験で合格しましたか。

技術士補は1度目の試験で合格しました。技術士の二次試験はおおよそ2回目で合格しています。

主な勉強方法を教えてください。

技術士補は独学でした。大学は理学部で生物系の分野を学んでいました。

その為、機械力学、熱力学、流体力学など工学の重要な基礎がわかっていませんでした。

初歩の初歩から勉強する必要があったため、独学で基礎から勉強しなおす必要がありました。

二次試験は、会社で通信講座の補助があるので、活用していました。特に業務経歴書は他の人の目で見るとどのように見えるのかということを知っておきたかったというのもあります。

あとは、先輩や知り合いの方が受験した時に使用したキーワード集を譲ってもらい、それを覚えるようにして自分でまとめる時間を少なくするようにしました。Ⅱ-1用のキーワード学習に割ける時間が無かったので、インターネットで言葉を調べ、Wordに貼り付け、試験前までそれを読むようにしていました。

効果的だったと思う勉強方法を教えてください。

過去問分析が効果的でした。

長時間集中して勉強することが苦手ですので、先ず、過去問を分析し、どのような分野でどのような問題が出ているかを確認しました。

特にⅡ-1の知識問題と言われるところはその分析結果を用い、今年度どのような問題が出るかということを予測して出そうな範囲を集中して勉強しました。

Ⅱ-1は4問全て解ける力をつけるというのではなく、そのうちの2問が解ければよいと、勉強する範囲を絞るようにして、勉強時間の短縮をしています。

Ⅱ-2は自身の業務を洗い出し、流れを整理しておくようにしました。業務の流れのなかにその部門でよく使われるキーワードをいれるようにして膨らませるようにしました。

ⅠとⅢは白書などから時事問題を抽出して、解決策を数個考えておくようにして、どのような問題が来ても、自身が持つ解決策に落とし込めるようにストーリーを構成するように数回練習しています。

あまり書きすぎると手が持たないので、何回も書くということは止めました。

会社員として働きながら独立を実現するために準備したことは何ですか?

現時点でも企業に勤めながらですので、残念ながら独立を実現したとは言えないかと思いますが、起業する前に準備した事はいくつかあります。

複数の学会に入会し、つながりを作るようにしました。また、積極的にコミュニケーションを取るようにし、アピールもするようにしました。

独立時の最初の仕事はどのように得ましたか?

技術士として技術交流をしていた中で、ある企業の社長様からお声掛けいただき、生産性向上、技術支援を行う顧問として業務を頂戴しました。

現在の具体的な業務内容についてお聞かせいただけますか?

製造エンジニアとして、部品の開発や生産設計を行っています。

個人事業主として、企業様の技術支援を行い、株式会社の代表取締役として、特別教育などを行うことで安全や品質向上に寄与できていると考えております。

技術士として独立したことによって、以前と比べて仕事のスタイルや内容はどのように変わりましたか?

俯瞰した視点で自身の業務を見つめ直すことができるようになりました。また、自身の経験を活かし、他社様で生産改善や品質管理を行いましたが、かなりの効果があり、自身のやり方が間違っていなかった、自身も成長できていたのだということがわかり自信がつきました。

あわせて、「担当」としての視点でしか業務を見ることができていなかったのですが、「経営者」や「管理職」としての視点を得られることが出来、違ったものの見方ができるようになったと思います。

独立すると仕事を請け負う際の「報酬交渉」も自分の手に委ねられますが、「お金」に関する体験があれば教えてください。

相手企業様のことを考えるとどうしても価格設定がうまくできないという点でしょうか。自身の利益を減らしてしまうという点では、経営者として失格だと反省しています。

日本は「ものづくり」で成長してきたと思っていますが、最近は海外に価格、品質でも負けてきつつあります。特に、装置産業に変わってきてしまうとなかなか現状では勝てない状況に陥っていると思っています。

自身の経験が何か生かせないか、何か日本の製造業に対し、できることはないのかという思いが強くありました。

どうしても企業に勤めていると、企業が係わっているパートナー様などに対して、ご協力はできるものの、関係のない会社様へご協力するということはできませんでした。社外に一歩踏み出し、社会貢献をする為に個人事務所を設立しました。

このような経緯があることから、自身の利益よりも企業様の利益を考え最初低めに報酬を設定して傾向があります。最初低めの報酬を設定してしまうと、リピートいただいた際も金額を上げることができないため、儲けが少なくなってしまいます。

自己研鑽や学びを続けているとすれば、どのような方法で実施されていますか?

CPD講演などへの参加、各種技術や経営に関する資格の取得や大学院での学びが主かと思います。また、小学生などへ理科授業や、技術講演などに積極的に参加するようにしています。

相手にわかりやすく伝えようとするときちんと基本がわからなければなりません。非常に勉強になっています。

技術士としての「理想と現実」にギャップを感じる瞬間はどんな時ですか?それでも続けられる原動力は何ですか?

技術士は社会貢献の側面が大きく、これ1本で生活を成り立たせるというのは極めて難しいという肌感覚があります。

企業内で技術士をどう活かすのか、理想としては技術士であるからこそ技術者倫理を踏まえて業務を行うことができるということなのでしょうが、社会人として、エンジニアとして技術者倫理を持って業務に取り組んでいますので、何が違うのか実感がわかないというのも本音のところです。

原動力は、技術士としてかかわった先の企業様からの「有り難う」というその言葉でしょうか。”

今後、技術士としてどのようなことに取り組みたいと考えていますか?

引き続き、日本の製造業を強くするために、自身ができることを提供していきたいと考えています。

最後に、技術士を目指す方に向けてメッセージをお願いいたします。

技術士の取得はあくまでも目標の通過点にすぎません。技術士という資格を取ることを目標にするのではなく、その後自分が何をしたいのか、どのようなキャリアを積み上げていきたいのか、その先の何を目指しているのかをしっかり自分の中で確立しておくことが必要かと思います。

技術士を取得したことで、今まで見えていなかった世界が見えるようになりました。また、多くの方とのつながりや経験、見識も増やす事ができています。

是非、みなさんも技術士の資格を活かして、社会貢献、日本の技術力向上にお力添えいただければと思います。

執筆者

三菱重工業株式会社
株式会社安全衛生加工技術センター〈代表取締役〉
酒本技術士事務所〈代表〉

酒本昌子  技術士 (総合監理部門、機械部門、金属部門、経営工学部門、衛生工学部門)


インタビューを終えて

今回のインタビューを通して、技術士という資格が単なる「ゴール」ではなく、キャリアを広げ、新たな価値を創出するための「スタートライン」なのだと改めて感じました。異分野からの挑戦や資格取得までの道のり、そして独立を視野に入れた取り組みなど、彼女の歩みには、技術士を目指す方にとってのヒントがたくさん詰まっていたのではないでしょうか。

技術士資格は、私たちが社会や産業に貢献する力を大きく引き上げ、さらなる成長への扉を開いてくれます。

もしあなたも「ものづくりの力で社会を支えたい」と思っているなら、まず一歩踏み出してみませんか?

資格取得に向けた学びは、確実に次のキャリアへの自信とつながっていくはずです。