今回は、令和7年度技術士第二次試験・機械部門「機械設計」Ⅲ-1を例題として、問題文の読み取りから問題分析、答案骨子、解答例の完成までを順番に解説します。
問題文が求めるのは、社会の連携が長期間分断された場合でも製品を供給し続けられる「レジリエントな設計活動」です。本記事では、大規模自然災害による重要部品の供給停止を想定し、サプライチェーン強靱化の観点から答案を組み立てます。
この記事で確認できること
- 問題文から解答条件を抽出する方法
- 現状と目指す姿の差から技術課題を設定する方法
- 一般論を機械設計の解答へ落とし込む方法
- 課題・解決策・新たなリスクを一貫させる方法
完成した解答だけを覚えるのではなく、「なぜこの骨子になるのか」を意識して読み進めてください。
令和7年度・機械設計Ⅲ-1の問題
現代社会は、ヒトやモノが地球規模で緊密な連携を保ちながら発展を遂げている。この状況下で、感染症のまん延、地政学的不安定、データセンタへの攻撃や大規模自然災害など何らかの理由で連携が分断されると、機能回復まで多大な時間を要する可能性がある。このような状況下であっても、機械設計の技術者には社会に製品を供給し続けるレジリエントな設計活動が求められる。これらのことを考慮して、機械設計の技術者の立場で、以下の問いに答えよ。
(1) 長期にわたって社会の連携が分断されるリスクを1つ想定したうえで、レジリエントな設計活動を実現するための技術課題を多面的な観点から3つ抽出し、それぞれの観点を明記したうえで、技術課題の内容を示せ。
(2) 抽出した技術課題のうち最も重要と考えるものを1つ挙げ、最も重要と考えた理由とその技術課題に対する複数の解決策を示せ。
(3) すべての解決策を実行しても新たに生じるリスクとそれへの対策について、専門技術を踏まえた考えを示せ。
出典:公益社団法人 日本技術士会「令和7年度 技術士第二次試験問題〔機械部門〕機械設計」
問題文では、感染症、地政学的不安定、データセンタへの攻撃、大規模自然災害などが例示されています。まず、この中からリスクを1つ選び、答案の前提を固定する必要があります。
今回想定するリスクと目指す姿
想定するリスク
本記事では、産業機械に使用する重要部品の海外メーカーが大規模自然災害で被災し、少なくとも6か月間は供給を再開できない状況を想定します。
- 現在は1社からのみ調達している
- メーカー固有の寸法や性能を前提に設計している
- 代替品を採用するには設計変更が必要である
- 製品の安全性や耐久性に影響する重要部品である
- 納入済み製品の保守にも使用する
目指す姿
目指す姿は、重要部品の供給が停止しても、製品の品質と安全性を確保したうえで、目標復旧時間内に代替品へ切り替えて製品供給を再開できる状態です。
現状とのギャップ
現状では特定メーカーの部品仕様に依存しており、代替候補の事前評価も行われていません。また、部品の供給経路や上流メーカーの情報が、設計情報と十分に関連付けられていない可能性があります。
供給停止後に代替品を探し始めると、再設計、試作、性能試験、製造条件の確認及び顧客承認に時間がかかり、早期に供給を再開できません。
問題の定義
特定の供給者に依存した製品設計と、代替品を短期間で認定する仕組みが整っていないため、重要部品の供給停止時に製品供給を継続できない。
問題点を3つの技術課題へ変換する
「調達先を増やす」「在庫を増やす」は対策であり、技術課題ではありません。技術課題は、現状から目指す姿へ到達するために、技術者が実現すべき状態として表現します。
課題1|供給リスクの可視化
情報管理の観点から、製品を構成する部品と、その供給経路及び供給途絶リスクを関連付けて管理することが課題です。
一次サプライヤーが供給可能でも、上流の材料メーカーや加工会社が被災すれば部品を生産できません。設計部品表と供給者情報を関連付け、単一調達、長納期、地域集中、代替困難性及び安全への影響から重要部品を特定する必要があります。
課題2|代替品を採用できる製品設計
設計技術の観点から、特定メーカーの部品や材料に依存せず、代替品へ切り替えられる製品設計を実現することが課題です。
メーカー固有の寸法、材料又は製造方法を前提とした設計では、別の供給者を確保しても、そのまま置き換えられません。要求仕様を機能・性能で定義し、取付部や接続部を標準化するとともに、代替品の特性差を吸収できる設計余裕を確保する必要があります。
課題3|代替品を短期間で認定する仕組み
品質保証の観点から、代替材料や代替部品を短期間で評価し、安全に採用できる仕組みを構築することが課題です。
代替候補が見つかっても、強度、耐久性、寸法精度及び環境耐性の確認に長期間を要すれば、供給再開には間に合いません。平時から代替候補を選定し、必要な解析、試験、設計変更及び承認の手順を整備する必要があります。
最重要課題を選ぶ
最重要課題には、「代替品を採用できる製品設計」を選びます。
供給リスクを可視化して代替候補を見つけても、製品設計が特定部品に依存していれば、短期間で切り替えられません。一方、代替可能な製品設計を実現できれば、複数調達、代替材料の採用、生産拠点の変更といった複数の対策を実行しやすくなります。
ほかの課題へ与える影響が大きく、機械設計技術者が主体的に取り組めるため、最重要課題として説明できます。
解決策を機械設計の専門技術で考える
解決策1|重要部品の選別と仕様の機能化
すべての部品を一度に見直すのではなく、供給停止時の影響度、調達期間、代替困難性及び安全への影響から部品を分類します。
優先度の高い部品については、仕様をメーカー固有の型式や製法で指定するのではなく、荷重容量、寿命、寸法精度、使用温度、耐食性、振動・衝撃への耐性などの機能・性能で定義します。必要な機能を満たす複数の部品を採用できる状態を目指します。
解決策2|標準化・共通化・モジュール化
取付寸法、接続部、通信方式などのインターフェースを標準化します。また、製品ごとに異なる部品を使用するのではなく、可能な範囲で部品を共通化します。
部品単位での互換が難しい場合は、複数の部品をモジュールとして交換できる設計にします。アダプターや調整機構、適切な設計余裕によって代替品の特性差を吸収し、製品全体の再設計を防止します。
解決策3|代替品の事前認定
代替候補となる材料、部品及び供給者を平時から選定し、次の方法で評価します。
- CAEによる強度・熱・振動解析
- FMEAによる故障モードの抽出
- DRBFMによる変更点・変化点の重点評価
- 許容差解析による組立性及び性能の確認
- 試作品による機能試験
- 加速試験による寿命評価
- 製造工程の監査と工程能力の確認
解析と実機試験を組み合わせ、代替品の採用条件、追加確認項目及び承認者を事前に定めます。
答案骨子をまとめる
| 項目 | 記述する内容 |
|---|---|
| 想定リスク | 海外の単一供給者から調達する重要部品が6か月以上供給停止 |
| 目指す姿 | 品質・安全性を確保して目標復旧時間内に代替品へ切替え |
| 課題1 | 情報管理の観点:供給リスクの可視化 |
| 課題2 | 設計技術の観点:代替品を採用できる製品設計 |
| 課題3 | 品質保証の観点:代替品の短期認定 |
| 最重要課題 | 代替品を採用できる製品設計 |
| 解決策 | 仕様の機能化、標準化・モジュール化、代替品の事前認定 |
| 新たなリスク | 品質ばらつき、潜在故障、技術情報漏えい |
| 対策 | 段階的認定、監視、トレーサビリティ、アクセス管理 |
解答例
1.レジリエントな設計活動に向けた技術課題
産業機械に使用する重要部品を海外の単一供給者から調達しており、大規模自然災害により供給が6か月以上停止するリスクを想定する。目指す姿は、品質及び安全性を確保したうえで、目標復旧時間内に代替品へ切り替えて製品供給を再開できる状態である。
(1)情報管理の観点:供給リスクの可視化
第一の課題は、製品を構成する部品と供給経路を関連付け、供給途絶時の影響を可視化することである。一次供給者が供給可能でも、上流の材料メーカーや加工会社の被災により部品供給が停止する場合がある。このため、設計部品表と供給者情報を関連付け、単一調達、長納期及び代替困難な部品を特定する必要がある。
(2)設計技術の観点:代替可能な製品設計
第二の課題は、特定メーカーの部品や材料に依存せず、代替品を採用できる製品設計を実現することである。メーカー固有の寸法、材料及び製造方法を前提とした設計では、別の供給者を確保しても再設計と評価に長期間を要する。要求仕様を機能・性能で定義し、代替品の特性差を吸収できる設計とする必要がある。
(3)品質保証の観点:代替品の短期認定
第三の課題は、代替材料及び代替部品を短期間で評価し、安全に採用できる仕組みを構築することである。代替候補が見つかっても、強度、耐久性、寸法精度及び環境耐性の確認に時間を要すれば、早期復旧はできない。平時から代替候補を選定し、解析、試験及び承認の手順を整備する必要がある。
2.最重要課題と解決策
最重要課題は、代替可能な製品設計の実現である。供給リスクを把握して代替候補を確保しても、製品が特定部品に依存していれば供給を再開できないためである。また、本課題の解決は複数調達や代替材料の採用にもつながり、サプライチェーン全体への効果が大きい。
(1)重要部品の選別と仕様の機能化
供給停止時の影響度、調達期間、代替困難性及び安全への影響に基づいて部品を分類する。重要度の高い部品は、メーカー型式ではなく、荷重容量、寿命、精度及び使用環境などの機能・性能で要求仕様を定義する。複数の部品が要求を満たせるように設計条件を明確にし、過剰な固有仕様を排除する。
(2)インターフェースの標準化とモジュール化
取付寸法、接続部及び通信方式を標準化し、部品の共通化を進める。部品単体での互換が困難な場合は、複数部品をモジュール化してモジュール単位で交換可能とする。また、アダプターや調整機構を設け、代替品の寸法差を吸収する。これにより製品全体の再設計を防止する。
(3)代替品の事前認定
代替候補について、CAE、FMEA、DRBFM及び許容差解析を用いて変更による故障モードを抽出する。さらに、試作品による機能試験と加速試験を実施し、強度、耐久性及び環境耐性を確認する。評価結果、採用条件及び図面を構成管理し、供給途絶時に必要な確認だけで切り替えられる状態にする。
3.新たに生じるリスクと対策
すべての解決策を実施しても、供給者や製造方法の違いによって品質がばらつき、長期使用後に潜在的な故障が発生するリスクがある。また、複数の供給者へ設計情報を提供することで、技術情報が漏えいする可能性もある。
品質リスクへの対策として、材料証明、製造条件及び検査結果を製造番号と関連付け、トレーサビリティを確保する。代替品は少量生産から段階的に採用し、市場での故障率、振動、温度などを監視する。異常傾向を検出した場合は原因を分析し、設計条件及び認定基準へ反映する。
情報漏えいへの対策として、供給者へ提供する情報を製造に必要な範囲へ限定する。データのアクセス権限、授受履歴及び保管期限を管理するとともに、供給者監査を定期的に実施する。以上により、代替性と品質・安全性を両立したサプライチェーンを構築する。
※解答例は一つの考え方です。実際の答案では、自身の専門分野と業務経験に近い製品、部品、解析方法及び評価方法へ置き換えてください。
この答案で意識したポイント
この答案では、次の因果関係を一貫させています。
特定部品へ依存している
↓
代替時に再設計が必要になる
↓
評価に時間がかかる
↓
製品供給が長期間停止する
↓
代替可能な設計と事前認定によって切替時間を短縮する
課題と解決策を個別に並べるのではなく、問題の原因から解決までを一本の流れでつなぐことが重要です。
また、要求仕様の機能化、標準化、モジュール化、CAE、FMEA、DRBFM、許容差解析、加速試験、構成管理などを盛り込み、一般的な経営論ではなく機械設計の答案にしています。
よくある失敗
「複数調達すること」を課題にする
複数調達は解決策です。課題は「代替品へ短期間で切り替えられる設計を実現すること」のように、目指す状態として表現します。
在庫の積み増しだけで解決する
在庫は短期的な供給途絶には有効ですが、途絶が長期化すると限界があります。また、過剰在庫や廃棄の増加にもつながります。代替設計と事前認定を組み合わせる必要があります。
調達部門の対策だけを書く
供給者の分散、在庫確保、物流経路の変更だけでは、機械設計の専門性が伝わりません。設計仕様、標準化、信頼性評価など、機械設計技術者が実行する解決策を書きましょう。
解決策と関係のないリスクを書く
自然災害や物流停止は、もともと想定したリスクです。設問3では、解決策を実施したことで新たに生じるリスクを考えます。今回であれば、代替品による品質ばらつきや、複数供給者への情報提供による技術情報漏えいが該当します。
自分の業務経験へ置き換える
解答例をそのまま暗記するのではなく、対象部品を自分の実務に近いものへ置き換えてみましょう。
- 軸受
- モーター・減速機
- センサー・制御機器
- 半導体
- 鋳造品
- 特殊鋼
- シール部品
対象部品が変われば、確認すべき性能や有効な評価方法も変わります。「自分ならどの部品を対象にし、どの解析や試験で代替品を認定するか」まで考えることで、ほかの問題にも応用できる答案になります。
まとめ
令和7年度の機械設計Ⅲ-1では、社会の連携が分断された場合でも製品を供給し続けられる、レジリエントな設計活動が求められました。
サプライチェーン強靱化の観点から解答する場合は、調達先や在庫の話だけで終わらせず、代替品へ切り替えられる製品設計まで踏み込むことがポイントです。
- 想定するリスクを具体化する
- 現状と目指す姿の差を明らかにする
- 問題点を3つの技術課題へ変換する
- 影響が最も大きい課題を選ぶ
- 機械設計の専門技術で解決する
- 解決策によって新たに生じるリスクを評価する
まずは解答例を閉じた状態で、同じ問題の骨子を自分で作ってみてください。その後に解答例と比較すると、足りない視点や専門知識を見つけやすくなります。
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