あなたは「ウラノス・エコシステム」って言葉を聞いたことはあるけど何だかわからないのでは?心配する必要はありません。日本人のほとんどは聞いたことすらないでしょう。
本日は、できるだけ簡単に「ウラノス・エコシステム」について解説します。本記事を読んで知って欲しいことは次の6つです。
- 「ウラノス・エコシステム」とは、データスペースを構築する「取り組み」
- 「データスペース」とは、国境や分野の壁を越えた経済活動や社会活動の空間
- 「データスペース」はすでに沢山あり、利用されている
- 「データスペース」は、ポリシーとコネクターの2つで構成されている
- 「データスペース」がこれまでのデータ管理と違う所は「データの所有権」と「分散性」の2つである
- 「ウラノス・エコシステム」は日本の産業全体を横断する「データスペース」で、日本全体をOneTeamにしてSociety 5.0の実現を目指している
「ウラノス・エコシステム」は、DX(デジタルトランスフォーメーション)やAIにかかわるに注目のキーワードです。そして、近い将来日本で働く多くの方に影響を与える大規模な取り組みです。この機会に「ウラノス・エコシステム」や「データスペース」を理解しておくことで将来のビジネスチャンスを活かすことにつながるでしょう。
本記事ではまず、「ウラノス・エコシステム」を含む「データスペース」について解説し、その後、「ウラノス・エコシステム」で取り組まれている事例や目指す未来について解説します。
まず、「データスペース」って何?
「ウラノス・エコシステム」は、データスペースを構築する「取り組み」のことです。なのでまずは、データスペースとは何かについて解説します
「データスペース」とは図書館である
「データスペース」というのは、「国境や分野の壁を越えた新しい経済空間であり、社会活動の空間」のことです。
たとえば、Amazonは国を越えてビジネスをしています。当然、各国の規制に従ってビジネスをしてますが、同時にAmazonが作った独自のルールもあります。世界中のAmazon利用者(売る側も買う側も)はそのルールにしたがっています。これはAmazonが作った経済空間が存在しているということです。
つまり、国という枠組み以外にも新しい「○○空間」ができていて、そこには新しいルールがあって新しいビジネスもできるということです。この「○○空間」をデータを利用する目的で作られているのが「データスペース」です。
図書館に例えると、図書館自体はデータスペース、本はデータ、貸出ルールはポリシー、貸出カードはコネクターとなります。
本を読みたい人は図書館に行って貸出ルールにしたがって貸出カードを使って本を借り読みます。同様に、データを利用したい人はデータスペースに行ってそこのポリシーにしたがってコネクターを使ってデータを借りデータを利用します。
重要な点は、本の著作権が図書館でなく著者にあるようにデータの所有権はデータの保有者にあり、データスペースにはありません。
「データスペース」は既にいろいろ活用されてる
既に多くの業界で「データスペース」が構築されています。代表例としては、欧州の自動車業界でデータを共有することを目的とした「Catena-X」があります。自動車業界のサプライチェーンや規制に関わるデータの共有を目指しており、日本でも注目されはじめています。
「DATA SPACE RADAR」というサイトで活動中のデータスペースの数がカウントされており2024年時点で140以上となっています。
「データスペース」の特徴<これまでのデータ管理との違い>
データスペースの特徴は、データ提供元がデータの権利を保持し続ける「データ主権」、共通のデジタル基盤を利用することで誰もがデータを活用することが可能な「公平性」、データ提供元と相互に信頼性を確保した上でのデータ転送/アクセス可能な「相互運用性」などが挙げられます。
従来型のデータ管理との大きな違いとしては、「データ主権」と「データ分散性」の2点です。
従来型のデータ管理とデータスペースの違いをみてみると従来のGoogleのようなプラットフォーマー型はプラットフォーマーがデータを一元管理しており、データの提供元である企業や個人は自身のデータがどのように利用されているか関与できません。つまり、データ提供元にデータ主権が無い状態です。また、従来のEAIはデータは分散型ではありますが、プラットフォーマー型と同様、データ提供元にはデータ主権はありません。データスペースはデータが分散型であり、データ提供元にデータ主権があります。
(出典:独立行政法人情報処理推進機構 デジタル基盤センター)
「データスペース」の構成要素は2つだけ
「データスペース」の基本の構成要素は「コネクタ」と「ポリシー」の2つです。
コネクタ
コネクタとは、データ交換とデータ共有のために定義された方法のことを指します。データスペースはデータストレージ機能を持たず、データは、信頼できる当事者に転送されるまで物理的に各データ所有者に保持されています。このデータスペースの思想を実現するための技術が「コネクタ」です。
イメージとしては家電のコンセントのようなものです。家電はコンセントが共通で用意されているため、個別に電気を受け入れるための検討や開発する必要がありません。同様に、データスペースもコネクタが共通で用意されているため、個々のシステムごとにデータを受け入れるための検討や開発する必要がありません。
(出典:DX SQUARE)
ポリシー
ポリシーとは、「データスペース」の「管制塔」といえます。複数の会社やプレイヤーがコネクターを使ってデータを共有するということは、そこには「管制塔」と呼べるようなものが必要です。
たとえば、自動車業界でデータを共有する時にトヨタ自動車と日産自動車は十分信用できるからOKだが、○〇工業という会社については不明点が多い。加えてもOKなのか判断するために信用情報や決算情報が必要かもしれないし他のメンバーからの承認もいります、または、ルールを破ったときの罰則も決める必要があかもしれません。
データスペースとしてデータを共有するにはこのような原則を決める必要があります。そしてその原則をポリシーといいます。ポリシーの内容は主に「アクセス制御」と「データの利用制御」に関するもので、例えば次のようなルールがあります。
- 機密性: 許可を持たないノードに転送してはならない
- 整合性: 信頼されていないノードによって変更されてはならない
- 生存期間: 一定期間が経過するとデータはストレージから削除されなければならない
- 集約による匿名化: 個人データは集約された形式でのみ使用される場合を許容する。そのためには、個々のレコードが特定されないように、十分な数のデータが集約される必要がある。
「データスペース」の目的
データスペースがあれば、その中でデータのルールが統一されて、業界や分野を越えて自由自在にデータの流通ができるようになり、新しいサービスが可能になります。
分かりやすい例は「リコメンデーション」です、Amazon等のショッピングサイトはあなたの購入履歴のデータを基に「これも買ったほうがいいよ」と提案してきます。これまでは1社がもっているデータの中での提案しかできませんが、データスペースにあるデータを使って、企業や分野を越えたデータを組み合わせた提案が可能になります。つまり、1つの領域についてだけじゃなく、企業や個人のさまざまな活動に対して「次はこうしてください」というリッチな提案ができるようになります。
このように、データスペースにある「多種多様」で「信頼性のある」大量のデータを利用できるようにすることで、新しいサービスの創出や、既存サービスの高度化を目指すことが目的です。
(出典:独立行政法人情報処理推進機構 デジタル基盤センター)
「ウラノス・エコシステム」は日本をOneTeamにする仕組み
「ウラノス・エコシステム」は経済産業省が主導し官民一体でデータスペースを構築する取り組みです。
現在、日本でも複数の企業が連携して経済圏を作り上げるなど、企業間のデータ共有や連携は少しずつ普及していますが、その多くは産業ごとの取り組みになっています。しかし、脱炭素や人手不足の加速、災害の激甚化、グローバルリスクなどの社会課題の解決に加え、海外のデータ連携基盤との相互運用の調整が求められています。そういった背景から、産業や組織を超えたデータ共有・連携・活用するための仕組み作りが「ウラノス・エコシステム」で行われています。
「ウラノス・エコシステム」での取り組みの例
「ウラノス・エコシステム」での取り組みの具体例をいくつか紹介します
物流や災害対応など、生活に欠かせないインフラサービスを守る
少子高齢化により人手不足が深刻化し、現状のままでは生活に必要なサービスや機能を維持することが難しくなっています。特に、人口の少ない山間地域では、移動が困難になる「人流クライシス」、ドライバー不足による「物流クライシス」、そして地震や豪雨などの災害対応が遅れる「災害激甚化」といった問題が顕著です。
これらの課題を解決するためには、単に自動運転車やドローンを導入するだけでは不十分です。さまざまなシステムを連携させ、全体的な仕組みを構築する必要があります。
例えば、A地点からB地点に移動する際には、位置情報だけでなく、気象状況や電波状況の確認も欠かせません。また、荷物を運ぶ場合、その需要や供給の状況も把握する必要があります。個別の事業者がこれらのデータを一つ一つ取得するのは非効率的です。そこで「ウラノス・エコシステム」を活用し、すべての事業者が共通のデータを利用できる仕組みを整えることで、低コストで効率的な業務運営が可能となります。
企業間のDX
企業間の取引では、今も紙やFAX、メールなどのアナログな方法が多く使われており、生産性の低下を招いています。デジタル化されたシステムが導入されている場合でも、データ連携の規格が業界や製品ごとにバラバラで、業界を超えたデータ共有が進んでいないのが現状です。このような課題に対処するために、共通のEDI規格「中小企業共通EDI」やデジタルインボイスの標準規格「JP PINT」が整備されていますが、まだ受発注や請求に限られています。
また、カーボンニュートラルの実現やサプライチェーンのリスク管理などの面で、企業間のデータ共有の必要性が高まっています。これに対応するため、「ウラノス・エコシステム」では、契約から決済までの取引をデジタル化し、社会的な課題を解決する包括的な仕組みを構築しています。具体的には、以下の業界横断的な課題に対応する「サプライチェーンデータ連携基盤」を構築することを目指しています。
- トレーサビリティ管理
- 開発・製造の効率化と活性化
- サプライチェーンの強靭化と最適化
- 経理・財務のデジタル化による効率化
人流・物流のDX
日本では、人口減少や少子高齢化が進む中、異業種や地域、業界間でデータを連携し、より効率的な人流・物流の実現が求められています。このため、経済産業省は自動運転やAIによるイノベーションを社会に導入し、人手不足などの課題を解決する、デジタルとリアルが融合した地域生活圏を構築することを目指しています。
この計画の一環として、「ウラノス・エコシステム」を活用し、人流・物流のDX化を実現する仕組みを検討しています。具体的には、自動運転車、ドローン、サービスロボットといった自律移動ロボットを活用し、人や物の流れを最適化するための環境を仮想空間で再現する「4次元時空間情報基盤」の構築が進められています。これにより、モビリティが安全かつ経済的に運行できる環境が整い、物流や移動の効率が大幅に向上することが期待されています。
人流・物流のDXを実現するには、通信網やIoT機器などのハード、データ連携基盤や3D地図といったソフト、認定制度などのルールという3つの視点での整備が必要です。「4次元時空間情報基盤」は、この中でソフトに相当する部分を担当しており、企業が空間に関連する情報を迅速かつ簡単に活用できる共通プラットフォームを提供します。
国際的な法律や規則に従うための対応
カーボンニュートラルの実現など、社会からの要請に応え、リスクを管理することが企業には求められています。これに対応できないと、海外での製品販売や調達が困難になったり、営業秘密の提出を求められるなど、企業経営に問題が生じる可能性があります。
たとえば、自動車業界では、2024年から段階的に施行される欧州電池規制により、蓄電池に関するリスクが顕在化する見込みです。
このため、企業は「ウラノス・エコシステム」を活用し、他社とのデータ共有や活用を進めることで経営リスクを回避することができます。また、急速に変化する社会や顧客のニーズに迅速に対応できる体制を整えることで、日本の製品やサービスの競争力をグローバル市場で強化することが期待されます。
新しいアイデアや技術を生み出す
企業活動には、競争力とは関係ない協力が必要な領域があります。例えば、ドローンや自動運転車の気象情報や電波状況などは、各社が独自に集める必要がなく、共通のデータとして共有すればよいものです。
このような協力的なデータを、すべての事業者が利用できるシステム連携基盤を通じて提供することで、コストが削減され業務が効率化されます。これにより、共創が促進され、イノベーションの創出にもつながります。新たな価値を生み出すことで、より良い商品やサービスが生まれ、経済成長を実現します。
「ウラノス・エコシステム」に期待する未来
「ウラノス・エコシステム」は、国家全体で進められている大規模な取り組みで、その目的は産業全体のエコシステムを作ることです。
現代のグローバル化が進む中で、特に欧州の厳しい法規制など、国際的な競争環境はどんどん厳しくなっています。このため、一つの企業や業界だけで対応するのは難しく、共通で使える公的なデジタルインフラを整備し、企業や業界が競争に集中することが重要です。また、データの重要性が高まっているため、日本全体でデータを共有し活用することが必要です。
「ウラノス・エコシステム」は、国内外で進んでいるデータ連携の取り組みの中で、注目される存在になるでしょう。人流、物流、商流、金流のデジタル化にはまだ課題が多いですが、今後はさらに制度を整えたり、他の分野での活用が進むと考えられます。例えば、ドローンや自動運転車など、身近な技術としてこれからよく耳にすることになるでしょう。
さらに、単にデータを共有するだけでなく、システム同士を連携させてエコシステムを作り上げます。これにより、企業はすべてのシステムを自前で作る必要がなく、既存のプラットフォームを組み合わせて使えるようになります。これにより効率が良くなり、イノベーションが生まれ、新しいサービスや商品が開発されることで、業界や国境を越えて広く利用される未来が期待されています。
「ウラノス・エコシステム」は、Society5.0を目指すためのデータ連携やシステム連携の取り組みであり、企業や業界、国境を越えたデータ共有とルール作りを進めています。
変化の激しいデジタル社会では、単独の企業や業界だけで大きな課題を解決するのは難しくなっています。データ連携やシステム連携について考えてみることが重要です。
ご精読ありがとうございました。