エリアスキャンカメラは一度に「面」を撮り、ラインスキャンカメラは対象物との相対移動を使って「線」を積み重ねます。離散した部品を一枚ずつ撮るならエリア方式、フィルムや鋼板のような連続材を途切れなく撮るならライン方式が有力です。ただし、動く物は必ずライン、安く始めるなら必ずエリアという選び方はできません。検出したい欠陥、撮影範囲、搬送速度、照明、検査の合否基準から逆算する必要があります。
この記事では両方式の違いを整理し、必要画素数とラインレートを仮の条件で計算します。数値例はカメラを確定するための保証値ではありません。実際の選定では、良品・不良品の現物を用いた撮像試験が必要です。
まず押さえたい違い
| 比較する点 | エリアスキャン | ラインスキャン |
|---|---|---|
| 画像の作り方 | 二次元の画素配列で面を撮る | 線状に撮り、移動に合わせて線を重ねる |
| 向きやすい対象 | 静止品、離散ワーク、位置決めして撮れる部品 | 連続するシート・フィルム、長尺材、回転させて展開撮像する円筒面 |
| 分解能の決め方 | 視野の縦横それぞれと、センサの縦横画素数で決まる | 幅方向は視野幅と一列の画素数、搬送方向は一ラインごとの移動距離で決まる |
| 動きへの対応 | 露光中のぶれ、トリガー、ストロボ、必要フレームレートを確認 | 必要ラインレート、速度変動時のエンコーダ同期、露光と光量を確認 |
| 構成上の注意 | 大きな対象を複数枚でつなぐ場合は重なりと位置合わせが必要 | 搬送や回転の安定性、線状照明、画像転送・処理・保存能力が重要 |
ライン方式は幅方向と搬送方向を別々に設計でき、連続面を撮るときにフレームの重複を減らせます。一方、面方式も、短い露光やストロボで動く部品のぶれを抑えられます。ローリングシャッターに起因する形の歪みを避けたい場合は、グローバルシャッターも選択肢です。「搬送中」というだけでエリア方式を除外しません。ライン方式なら必ず画像が均一になる、曲面の陰影が消える、とも言えません。照明角度、対象の反射、レンズ、振動、同期ずれで画像は変わります。方式は有力候補を絞るための分類であり、検出性能そのものではありません。詳しくはTeledyne Vision Solutionsのラインスキャン解説とBaslerのラインスキャン設定資料を参照してください。
方式だけで検出性能は決まりません。エリア方式でも露光・照明・トリガーなどの条件を確認し、ライン方式では対象の移動と取得タイミングを合わせます。メーカー仕様を確認し、良品・不良品の現物で合否基準を満たすか検証してください。
カメラ型式より先に、検査要求を一枚にする
画素数を計算する前に、少なくとも次を決めます。
- 何を判定するか。 傷・汚れの有無、欠陥の形状分類、寸法測定では必要な画像品質が異なります。最小欠陥の幅だけでなく、色・濃淡差、方向、位置、表裏を記録します。
- どこまでを一度に見るか。 対象の最大幅と位置ずれを含む視野、撮影面、作動距離、設置できる空間を決めます。視野を広げるほど同じ画素数では物体上の一画素が大きくなります。
- どの速さ・ばらつきで動くか。 最高搬送速度、停止や加減速、ワーク間隔、振動、回転の有無を確認します。平均速度だけで設計しません。
- どの誤りを許容しないか。 見逃しと過検出では損失が異なります。良品と不良品の代表サンプル、ロット差・表面差・照明変動を集め、試験時の合否基準を先に決めます。
たとえば「幅0.2 mmの傷」とだけ決めても、光沢面に同色で浅い傷がある場合と、マット面に高コントラストの異物がある場合では必要な照明・光学・画素数が違います。「傷は何画素あれば必ず見える」という共通の値は置けません。 画素数はまず試算し、その後に現物で必要な余裕を検証します。
必要画素数を試算する:幅方向と搬送方向を分ける
物体上の一画素の幅を、ここでは「物体側サンプリング間隔」と呼びます。視野幅を W mm、幅方向の有効画素数を N とすると、幅方向の間隔は sx = W ÷ N mm/画素です。最小欠陥幅 d mmを、撮像試験で仮に n 画素で観察したいなら、候補の幅方向画素数は N ≧ W × n ÷ d で概算できます。これはセンサの必要条件を絞る式であり、レンズがその細部を写せることや、判定ソフトが見逃さないことまで保証しません。
架空の条件で計算する
以下は方法を示すために作った架空の検討例です。実在の検査設備・実績値ではありません。
- 連続するフィルムの撮影幅:200 mm
- まず評価したい最小欠陥幅:0.2 mm
- 試験開始時に仮置きする欠陥幅の画素数:4画素(一般基準ではない)
- 最高搬送速度:600 mm/s
幅方向は N ≧ 200 × 4 ÷ 0.2 = 4,000画素。たとえば4,096画素のラインセンサでは 200 ÷ 4,096 ≈ 0.0488 mm/画素 となり、試算上の候補になります。ただし、製品の横ぶれや端部の余白を視野に入れるなら、有効な200 mmを何画素で写せるかを再計算します。レンズの解像力や周辺部の画質も確認します。
搬送方向の最小欠陥寸法も0.2 mmと仮定し、それを4ラインで観察したいなら、ライン間の移動距離 sy は 0.2 ÷ 4 = 0.05 mm/ライン 以下が試算上の目安です。必要ラインレート f は f ≧ 搬送速度 v ÷ sy なので、最高速度600 mm/sでは 600 ÷ 0.05 = 12,000ライン/秒 以上となります。ライン周期は約83 µsです。4,096画素・モノクロ8 bit・12,000ライン/秒なら、生画像だけで約49 MB/秒です(通信の付帯情報や保存形式などを除く概算)。カメラのカタログ上の最大ラインレートだけでなく、その速度での露光時間と光量、転送帯域、処理・保存容量を確認します。
速度が変動するのに一定間隔でラインを取得すると、搬送方向の画像が伸び縮みします。寸法や欠陥形状を評価するなら、搬送量に応じてラインを取得するエンコーダ同期を検討します。エンコーダも滑りや取付位置の影響を受けるため、実際の対象物の移動量と合っているかを確認します。Baslerのラインスキャン運用資料にも、一定速度での固定ラインレートと、速度変動時のエンコーダトリガーが区別されています。
エリア方式を比較候補に入れる場合も、視野の縦横をそれぞれの画素数で割り、必要な間隔を満たすかを見ます。搬送品では、露光中に進む距離 搬送速度 × 露光時間 がぶれの目安です。上の速度で露光100 µsなら0.06 mm進むため、必要な細部に対して許容できるかを確認し、必要なら照明・露光・トリガーを見直します。フレームレートだけで動体の画質は決まりません。
方式を絞るときの判断
エリア方式が有力なのは、一つずつ離れて流れる部品を、決まった位置・タイミングで面として撮れる場合です。複数面が必要ならカメラを増やすか、ワークやカメラを動かす構成を比べます。長い連続材でもフレームを重ねて撮ることはできますが、重なり、フレーム間の位置合わせ、データ量を評価します。
ライン方式が有力なのは、連続するフィルム・鋼板・印刷物を幅いっぱいに監視したい場合や、円筒物を回転させて表面を展開したい場合です。ただし、対象との相対移動と同期が必要です。円筒面は展開して写せても、反射や曲率による照明条件、回転むらの問題が自動的に解消するわけではありません。
価格はカメラ本体だけで比べません。レンズ、照明、トリガー・エンコーダ、搬送機構、通信、PC・保存装置、調整、保守、停止時の損失まで含めた構成の総費用で判断します。ライン方式が常に高価とも、エリア方式から始めれば常に安いとも言えません。Teledyne Vision Solutionsの方式解説も、光学系と照明を含む構成のトレードオフを示しています。
導入前に試すこと
候補の方式ごとに、次の条件を変えて良品・不良品を撮ります。
| 確認項目 | 試験で見ること |
|---|---|
| 照明と反射 | 欠陥のコントラストが出るか。光沢、色、凹凸、外光で変わらないか |
| レンズと設置 | 中心だけでなく端でも写るか。焦点、被写界深度、歪み、振動に余裕があるか |
| 最高速度・加減速 | ぶれ、ライン欠落、搬送方向の伸縮、ワークの取りこぼしがないか |
| 判定と運用 | 見逃し・過検出、処理遅延、保存容量、清掃後や品種切替後の再現性を測れるか |
特に「写真では見える」と「量産中に安定して判定できる」は別です。欠陥の種類・場所・ロット差ごとに、どの条件で見逃したかを残します。照明角度やレンズを変えた試験を重ね、合否基準に達しなければカメラの画素数だけを上げる前に撮像条件と検査要求を見直します。レンズは画素数に見合う解像力だけでなく、センサを覆うイメージサークル、作動距離、被写界深度を確認します。Baslerのレンズ選定解説も参照してください。
まとめ
エリアスキャンとラインスキャンの違いは、単に「面か線か」「安いか高いか」ではありません。最小欠陥と判定目的を決め、視野と必要画素数、最高速度と露光・ラインレートを計算し、照明とレンズを含む実機試験で選びます。連続材ならライン、離散部品ならエリアを候補にしつつ、片方を初めから決め打ちしないことが、見逃しと過剰投資を避ける近道です。
参考資料
- Teledyne Vision Solutions「Line Scan Primer」(線の積み重ねによる撮像、連続面と照明・光学のトレードオフ)
- Basler「GigE Line Scan Use Case Descriptions and Diagrams」(ラインレートと搬送速度の同期、速度変動時のエンコーダ利用)
- Basler「Bringing it All into Focus: Finding the Right Lens for Your Vision System」(レンズの解像力、イメージサークル、作動距離など)
