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実際に問題を解いてみる|建設部門 必須科目Ⅰ-1

2026 9/09
技術士試験 技術士論文例
2026年9月9日

令和8年度の技術士第二次試験・建設部門「必須科目Ⅰ-1」では、新技術・DXを活用してインフラの価値を高める方法が問われました。

AI、ドローン、IoT、BIM/CIMなど、答案に使えそうな技術は数多くあります。しかし、この問題で先に考えるべきなのは技術ではありません。問題文は、3つの観点を「インフラの価値」に関するものとするよう指定しています。

したがって、答案は次の順番で組み立てる必要があります。

インフラの価値=目的 → 技術課題=実現すべき状態 → 新技術・DX=実現手段

本記事では、人口減少、施設の老朽化、災害リスクを抱える地方圏の道路・橋梁を中心とした「地域インフラ群」を想定し、問題文の読み取りから答案骨子、解答例の完成までを順番に解説します。

この記事で確認できること

  • インフラの価値とDXを切り分ける方法
  • 指定された観点から3つの技術課題を抽出する方法
  • BIM/CIM、IoT、AI、デジタルツインを解決策へ落とし込む方法
  • DXへの依存によって生じる懸念事項の考え方
  • 答案骨子から3枚答案へ展開する流れ

本記事は、公開された試験問題と公的資料を基に作成した学習用の答案構成例です。日本技術士会が公表した公式解答や採点基準ではありません。実際の答案では、自身の専門分野、地域条件及び実務経験に合わせて具体化してください。

目次

令和8年度・建設部門 必須科目Ⅰ-1の要点

問題の正確な文章は、日本技術士会の「令和8年度 技術士第二次試験問題[建設部門]」で確認できます。

この問題は、ICTの進展と普及により、AI、ドローン・ロボット、ビッグデータ、IoT、リモートセンシングなどの開発と社会実装が進んでいることを背景としています。そのうえで、新技術・DXによりインフラの価値を向上させ、インフラサービスを高度化するための論述を求めています。

確認項目答案に必要な内容
立場建設部門の技術者
目的新技術・DXによるインフラの価値向上
観点必ずインフラの価値に関する3観点を置く
設問(1)各観点を明記し、3つの技術課題を抽出する
設問(2)最重要課題を1つ選び、複数の解決策を示す
設問(3)全解決策を実施しても新たに生じる懸念と対策を示す
設問(4)技術者倫理と社会の持続性に関する要件・留意点を示す

必須科目Ⅰの基本的な出題形式や答案の作り方から確認したい方は、先に必須科目Ⅰの骨子と論文の作り方をご覧ください。

最初に「インフラの価値」を定義する

問題文では、インフラの価値を、インフラの意義や果たしている役割として捉えています。言い換えれば、「インフラによって、利用者や社会が何を得られるか」です。

国土交通省の第6次社会資本整備重点計画は、インフラマネジメントを政策の核心に置き、社会経済のニーズに合わせてインフラを活用し、価値を創出する方針を示しています。これを答案用に整理すると、インフラの価値は次の3つに分けられます。

価値の観点目指す状態評価指標の例
Safe:安全・安心事故や機能停止を未然に防ぎ、災害後も必要な機能を保つ事故件数、通行不能時間、異常検知のリードタイム
Smart:生活の質・利便性利用者が必要なサービスを、分かりやすく切れ目なく利用できる所要時間、アクセス性、利用者満足度
Sustainable:持続可能性将来需要に合わせてインフラ群を更新・再編し、必要な機能を次世代へ継承するLCC、サービス水準、CO2排出量、予防保全率

ここで大切なのは、「人材不足」「予算不足」「データ形式が違う」といった現状の問題を、そのまま観点にしないことです。これらは価値の向上を妨げる要因や制約条件であり、利用者が受け取るインフラの価値ではありません。

価値から技術課題へ変換する

技術課題は、困っている状況や導入したい技術の名前ではありません。現状と目指す姿の差を埋めるために、技術によって実現すべき状態です。

次の順番で考えると、課題と解決策が混ざりにくくなります。

価値の観点 → 目指す機能 → 現状とのギャップ → 技術課題 → DXによる解決策 → 成果指標

今回の想定では、道路・橋梁の点検記録、補修履歴、交通量、気象・災害情報が管理者やシステムごとに分散しています。データを取得しても、将来予測、意思決定、現場対応へ循環させられていないため、安全性、利便性及び持続性の向上へ十分につながっていません。

弱い答案になりやすい書き方

弱い書き方弱くなる理由改善方法
DXを導入することが課題DXは目的ではなく手段DXで高めるインフラの価値を先に示す
DX人材を確保する実施体制の話に寄り、価値の観点が見えない人が少なくても維持すべき安全性・サービス水準を示す
AI、ドローン、BIM/CIMを導入する技術の列挙で終わり、判断や行動につながらない取得、統合、予測、判断、現場対応まで一連で書く
効率化・高度化を進める何がどれだけ良くなるか不明停止時間、検知時間、LCCなどの評価指標を置く

課題・解決策・懸念事項の違いも併せて確認すると、答案の階層を整理しやすくなります。

インフラの価値から3つの技術課題を抽出する

課題1|Safe:状態変化を予測し、機能停止を最小化する

安全・安心の価値から見た技術課題は、施設の状態、利用状況及び災害外力を継続的に把握し、劣化や被災を早期に予測して、予防保全と迅速な規制・復旧判断へ結び付けることです。

定期点検だけでは、点検間に急速に進行する変状や、複数施設へ同時に及ぶ災害影響を捉えにくい場合があります。データを増やすだけでなく、異常の兆候を判断し、点検の前倒し、荷重制限、通行規制、応急措置などへつなげる閉ループが必要です。

課題2|Smart:利用者にとって切れ目のないサービスを実現する

生活の質・利便性の価値から見た技術課題は、道路、河川、公共交通、まちづくりなどの分野別・管理者別データを連携し、利用者の状況や需要の変化に応じたサービスへ変換することです。

例えば、平常時の交通情報だけでなく、工事、冠水、通行止め、公共交通の運行状況を一体化すれば、利用者ごとの移動経路や避難行動を支援できます。行政内部の電子化で終わらず、利用者が受け取る時間短縮、安全性、分かりやすさまで設計する必要があります。

課題3|Sustainable:地域インフラ群を全体最適化する

持続可能性の価値から見た技術課題は、施設単位の維持管理から、地域の将来像を踏まえたインフラ群の管理へ転換し、更新、集約、機能転換及び撤去を適切に組み合わせることです。

個別施設の健全度だけでなく、施設の重要度、代替性、将来需要、LCC及び環境負荷を同じ基準で評価します。自治体やインフラ分野をまたいでデータを比較できなければ、限られた資源を安全性とサービス水準の維持に配分できません。

最重要課題は「安全・安心の価値向上」とする

3つのうち、最重要課題は「状態変化を予測し、機能停止を最小化すること」とします。

事故や災害による人的被害は不可逆であり、公衆の安全は他の価値より優先されます。また、インフラが安全に機能し続けることは、利用者サービスや経済活動を成立させる前提です。さらに、状態・利用・外力に関する信頼できるデータ基盤は、課題2のサービス最適化と課題3のインフラ群管理にも利用できます。

解決策1|ライフサイクルデータを統合する

最初の解決策は、施設ごとに一意のIDを付与し、設計、施工、点検、補修、災害及び利用状況のデータを、BIM/CIM、GIS及び三次元点群と関連付けた共通データ環境に統合することです。

単にデータを一か所へ集めるのではなく、取得日時、座標、精度、作成者、更新状態などのメタデータを持たせます。共通のデータ辞書とAPIを用いて管理者間で連携し、データの所有者、更新責任及び品質基準を明確にします。これにより、古い情報や単位の違いによる誤判断を防ぎます。

解決策2|多様な計測とAIで劣化・異常を予測する

IoTセンサにより、ひずみ、振動、変位、傾斜などを継続監視します。ドローン画像、LiDAR、衛星SAR、車両走行データ、気象・地震情報も組み合わせ、単一の計測方法では見逃す変状を相互に補完します。

デジタルツイン上で時系列データを管理し、AIにより変状抽出、劣化進行及び災害時の機能低下を予測します。ただし、AIの結果をそのまま採用せず、目視・非破壊検査、過去の損傷記録及び専門家レビューと照合します。見逃し率、過検知率及び予測誤差を継続評価し、適用範囲と信頼度を明示します。

解決策3|予測結果を現場の判断と行動へ接続する

健全度だけでなく、事故の発生確率、人的・社会的影響、路線重要度及び代替経路の有無を評価し、リスクベースメンテナンスによって点検・補修の優先順位を決めます。

デジタルツイン上で劣化、浸水、迂回及び復旧をシミュレーションし、結果を点検の前倒し、荷重制限、通行規制、応急補修及び復旧順位へ反映します。まず対象施設を限定して試行し、検知精度、通行不能時間、点検人時などのKPIを検証した後、適用条件と責任分担を定めて横展開します。

解決策主な技術確認するKPI
データ統合施設ID、BIM/CIM、GIS、点群、共通APIデータ更新率、欠損率、検索時間
状態予測IoT、ドローン、LiDAR、衛星SAR、AI、デジタルツイン見逃し率、過検知率、異常検知リードタイム
判断・行動リスク評価、シミュレーション、運用支援事故件数、通行不能時間、点検人時、予防保全率

解決策によって新たに生じる懸念事項

すべての解決策を実行すると、デジタル基盤への依存が高まります。その結果、誤データ、AIの誤判定、通信障害又はサイバー攻撃が、複数施設・管理者の判断へ同時に波及するという新たな懸念が生じます。

データとAIの信頼性を保つ

センサ校正、データの来歴管理、異常値検知及び複数情報源による照合を行います。AIには信頼度と適用範囲を設定し、現場条件の変化に応じて定期的に精度を検証します。重要施設の規制や供用可否は、AIだけに決定させず、技術者が現地情報を確認して最終判断します。

障害時にも最低限の機能を維持する

ネットワーク分離、最小権限、多要素認証、監査ログなどを設計段階から組み込みます。通信・電源・保存先を冗長化し、オフラインでも参照できる重要データと手動判断手順を残します。障害を想定した訓練を行い、デジタルシステムが停止しても安全側へ移行できる縮退運用を確認します。

技術者倫理と社会の持続可能性

技術者倫理の面では、公衆の安全、健康及び福利を最優先とします。AIの効率性を理由に安全確認を省略せず、判断根拠、データ品質、予測の不確実性及び責任分界を記録して説明できるようにします。人流・位置情報や重要インフラ情報は必要最小限に限定し、匿名化とアクセス制御を行います。

社会の持続可能性の面では、デジタルサービスを利用しにくい高齢者、障害者及び通信環境が不十分な地域にも代替手段を確保します。LCCだけでなく、データセンタ、センサ更新及び工事を含むライフサイクルCO2を評価します。また、オープンな仕様とデータ移行性を確保し、特定事業者に依存せず、長期にわたり更新・運用できる仕組みとします。

答案骨子を1枚にまとめる

答案の項目記載内容
問題の定義データと判断が分断され、取得情報をインフラの価値へ還元できていない
課題1Safe:状態変化を予測し、機能停止を最小化する
課題2Smart:利用者にとって切れ目のないサービスを実現する
課題3Sustainable:地域インフラ群を全体最適化する
最重要課題Safe:安全・安心の価値向上
解決策データ統合、状態予測、判断・現場対応の一体化
新たな懸念デジタル依存による誤判断・機能停止の広域波及
対応策データ検証、人の最終判断、セキュリティ、冗長化、縮退運用
倫理・持続可能性安全、説明責任、個人情報、公平性、LCC・CO2、長期運用

3枚答案では、設問(1)に約1枚、設問(2)に約1枚強、設問(3)と(4)に残りを配分するイメージです。先に骨子を作り、各項目が「価値→課題→解決策→懸念」につながっていることを確認してから本文を書きます。

解答例

以下は、地方圏の道路・橋梁を中心とした地域インフラ群を想定した解答例です。

1.新技術・DXによるインフラ価値向上の技術課題

(1)安全・安心の価値の観点:状態変化を予測し機能停止を最小化すること

地方圏では老朽施設が増加する一方、台帳、点検・補修履歴、交通量、気象・災害情報が管理者ごとに分散している。このため、点検間に進む変状や複数施設への災害影響を予測しにくい。施設状態と外力を継続的に把握し、事故前の予防保全、規制及び災害後の迅速な復旧判断へ結び付けることが課題である。

(2)生活の質・利便性の価値の観点:切れ目のない利用者サービスを実現すること

道路、河川、公共交通等の情報は分野・管理者ごとに提供され、利用者が必要な情報を一体的に得にくい。施設・交通・災害データを連携し、平常時から工事、冠水、通行止め、公共交通の運行状況を統合して、利用者の属性と状況に応じた移動・避難支援へ変換することが課題である。

(3)持続可能性の価値の観点:地域インフラ群を全体最適化すること

施設単位の健全度だけで更新を判断すると、人口・交通需要の変化、代替性及び地域全体のサービス水準を反映できない。自治体・分野をまたいで重要度、健全度、将来需要、LCC及び環境負荷を評価し、更新、集約、機能転換及び撤去を組み合わせて必要な機能を次世代へ継承することが課題である。

2.最重要課題と複数の解決策

最重要課題は、安全・安心の価値を高めるため、状態変化を予測し機能停止を最小化することである。人的被害は不可逆で公衆安全を最優先すべきであり、安全に供用できることが生活・経済価値の前提となる。また、状態・利用・外力のデータ基盤は他の2課題にも活用できる。

第一に、施設IDを付与し、設計、施工、点検、補修、災害及び交通データをBIM/CIM、GIS、三次元点群と関連付けて共通データ環境へ統合する。取得日時、位置、精度、作成者等のメタデータと共通データ辞書を定め、APIで管理者間を連携する。データ所有者、更新責任及び品質基準を明確にし、古い情報や単位差による誤判断を防止する。

第二に、IoTセンサでひずみ、振動、変位等を監視し、ドローン画像、LiDAR、衛星SAR、車両走行及び気象データを併用する。デジタルツイン上で時系列管理し、AIで変状抽出と劣化・被災予測を行う。結果は目視・非破壊検査及び専門家レビューと照合し、見逃し率、過検知率及び予測誤差を継続評価する。

第三に、事故発生確率、人的・社会的影響、路線重要度及び代替経路を評価し、リスクベースメンテナンスで点検・補修順位を定める。劣化、浸水、迂回及び復旧をシミュレーションし、点検前倒し、荷重制限、通行規制、応急補修及び復旧順位へ反映する。対象を限定して試行し、検知精度、通行不能時間及び点検人時を検証後、段階的に横展開する。

3.新たな懸念事項と対応策

デジタル基盤への依存により、誤データ、AI誤判定、通信障害又はサイバー攻撃が、複数施設の判断へ同時に波及する懸念がある。センサ校正、データ来歴管理、異常値検知及び複数情報源の照合を行い、AIの信頼度と適用範囲を示す。重要な規制・供用判断は技術者が最終確認する。さらに、ネットワーク分離、最小権限、監査ログ、通信・電源・保存先の冗長化を実施し、障害時はオフラインデータと手動手順で安全側へ縮退する。

4.技術者倫理と社会の持続可能性

公衆の安全、健康及び福利を最優先し、効率化を理由に安全確認を省略しない。データ品質、予測の不確実性及び責任分界を記録し説明責任を果たす。位置・人流情報は必要最小限とし、匿名化・アクセス制御を行う。高齢者、障害者及び通信弱者にも代替手段を確保する。LCCとライフサイクルCO2を評価し、オープン仕様とデータ移行性を確保して、将来世代まで更新・運用できる仕組みとする。

答案を提出する前の自己点検

  • 3つの観点がすべて「インフラの価値」になっているか
  • DX導入自体を技術課題にしていないか
  • 各課題を「実現すべき状態」として表現したか
  • 技術を「取得→統合→予測→判断→行動」まで説明したか
  • 解決策の効果を確認できるKPIを置いたか
  • 新たな懸念が、解決策の実施後に生じるものになっているか
  • AIやシステムが停止したときの安全側の対応を示したか
  • 倫理・持続可能性が本文の解決策と関連しているか

自分の専門分野へ置き換えて練習する

解答例をそのまま覚えるのではなく、自身の専門科目と実務経験へ置き換えてください。

専門分野状態把握・予測の例判断・行動の例
鋼構造・コンクリートひび割れ、腐食、たわみ、振動詳細調査、補修、荷重制限、更新
河川・砂防水位、流量、土砂移動、斜面変位放流、警戒情報、避難、応急復旧
道路路面性状、交通量、気象、通行障害規制、除雪、迂回案内、舗装修繕
トンネル変位、ひび割れ、漏水、附属物異常打音・近接点検、通行規制、補強
港湾・空港沈下、波浪、舗装、荷役・運航状況利用制限、代替バース・滑走路、補修

対象が変われば、支配的な変状、取得すべきデータ、許容できない影響、最終判断者及びKPIも変わります。「なぜその値を測り、どの基準で、誰が何を判断するか」まで具体化すると、専門技術を示しやすくなります。

まとめ

令和8年度・建設部門 必須科目Ⅰ-1では、AIやドローンに詳しいかではなく、新技術・DXをインフラの価値向上へ結び付けて説明できるかが問われています。

  1. インフラの価値をSafe・Smart・Sustainableに分ける
  2. 各価値について、現状と目指す姿の差から技術課題を作る
  3. DXは目的ではなく、課題を解決する手段として使う
  4. データ取得だけで終わらず、予測、判断、現場対応までつなぐ
  5. デジタル依存による新たなリスクと縮退運用を考える
  6. 公衆安全、説明責任、公平性及び長期運用を確認する

まずは解答例を閉じた状態で、自分の専門分野を一つ選び、3つの価値と技術課題を書き出してみてください。その後に本記事の骨子と比較すると、題意から外れた観点や不足している技術的説明を見つけやすくなります。

論文添削について確認する

独学だけでは答案の方向性を判断しにくい場合は、補助的な選択肢として技術士試験対策講座の比較も参考にしてください。

参考資料

  • 公益社団法人 日本技術士会「令和8年度 技術士第二次試験問題[建設部門]」
  • 国土交通省「第6次社会資本整備重点計画」
  • 国土交通省「インフラDXアクションプラン第2版」
  • 公益社団法人 日本技術士会「技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)に関する質問」
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