技術士第二次試験の受験申込書にある「業務内容の詳細」は、限られた文字数で、自分の立場、技術的課題、判断、成果を伝える必要があります。
この記事では、公式の記載要件を確認したうえで、情報を並べただけのNG例を、口頭試験の質問につながる720字以内の文章へ改善する過程を解説します。題材は機械設計の架空事例ですが、構成は他部門にも応用できます。
最初に押さえる公式ルール
- 業務経歴のうち一つを選び、選択科目の「専門とする事項」に基づいて詳述する
- 目的、立場と役割、技術的内容及び課題、技術的成果を記載する
- 720字以内で、図表は使用できない
- 半角文字も1字として数える
- 1行当たりの文字数や行数に決まりはない
上記は日本技術士会の「第二次試験 よくあるご質問」に基づきます。年度によって様式や案内が更新されるため、申込時は必ず受験年度の公式案内と様式を確認してください。
受験申込書全体の考え方から確認したい方は、先に技術士第二次試験申込書類の書き方をご覧ください。
720字を埋める前に、業務を選ぶ
よい文章に直す前に、題材が適切かを確認します。規模が大きい業務や成功した業務が、必ずしも最適とは限りません。自分の判断と役割を具体的に説明できる業務を選びます。
- 選択科目と「専門とする事項」に結び付く
- 技術的な課題があり、複数の制約や利害が関係している
- 自分が分析・評価・判断・調整した部分を説明できる
- 結果を指標や確認方法で説明できる
- 口頭試験で深掘りされても、守秘義務に配慮しながら答えられる
「参加した大規模プロジェクト」よりも、「自分が課題を定義し、選択肢を比較して決めた中規模業務」の方が、本人の能力を示しやすいことがあります。
おすすめの6要素と文字配分
720字ぴったりを目指す必要はありません。修正余地を残し、650〜700字程度を一つの目安にすると、無理に言葉を詰め込まずに済みます。
| 要素 | 目安 | 書く内容 |
|---|---|---|
| 1.目的・背景 | 80〜100字 | 対象、困りごと、達成すべき状態 |
| 2.立場・役割 | 50〜80字 | 自分の責任範囲と担当 |
| 3.技術的課題・制約 | 140〜170字 | 難しさ、複合要因、制約条件 |
| 4.分析・判断・調整 | 220〜260字 | 選択肢、評価軸、採用理由、関係者との合意 |
| 5.成果・評価 | 90〜120字 | 検証方法、結果、残存リスク |
| 6.今後への反映 | 40〜70字 | 標準化、横展開、得た知見 |
最も文字を使うのは「分析・判断・調整」です。背景説明や製品紹介が長くなり、本人の判断が2文しかない文章は避けます。
改善に使う架空の業務
| 業務 | 自動組立設備の駆動ユニットで繰り返す軸受損傷の再発防止設計 |
|---|---|
| 本人の立場 | 機械設計リーダー |
| 技術的課題 | 熱膨張、芯ずれ、潤滑状態が相互に影響し、原因を単独で特定できない |
| 制約 | 装置外形を変更できない、停止期間は2日以内、保全部品の共通性を維持 |
| 主な判断 | 再発リスク、施工時間、保全性で複数案を比較し、構造・組立・潤滑の対策を組み合わせる |
| 検証 | 試験機と先行導入で温度、振動、軸変位を確認してから横展開 |
NG例|業務の説明だけで終わっている
自動組立設備で軸受の故障が発生していたため、再発防止に取り組んだ。私は設計担当として、関係部門と協力して原因を調査した。調査の結果、支持構造と潤滑に問題があることが分かったため、構造を見直し、潤滑条件を変更した。設計後に試験を行い、問題がないことを確認した。その後、他の設備にも対策を展開し、故障を減らすことができた。
この文章が弱い理由
- 本人の役割が曖昧
「設計担当」「協力した」だけでは、責任範囲と判断した内容が分かりません。 - 課題の難しさがない
なぜ通常の設計変更では解決できなかったのかが示されていません。 - 結論に至る過程がない
比較した案、評価軸、採用理由がありません。 - 関係者調整が抽象的
誰と、どの制約について、何を合意したかが分かりません。 - 成果の測り方がない
「問題がない」「減らした」の根拠となる指標がありません。
NG例に書かれた出来事自体が悪いのではありません。必要な情報を頭の中から取り出せていないことが問題です。
NG例を5段階で改善する
1.主語を「私は」にして役割を固定する
「関係部門と検討した」ではなく、「私は設計リーダーとして、原因分析、対策案の評価、関係部門との合意及び検証計画を担当した」とします。すべてを一人で行ったように書かず、組織の仕事と自分の責任を分けます。
2.技術的課題を「現象+複合要因+制約」で書く
単に「軸受が故障した」ではなく、「熱膨張、芯ずれ、潤滑状態が相互に影響しており、外形、停止期間、部品共通化の制約下で原因を切り分ける必要があった」とします。
3.選択肢と評価軸を入れる
「構造を見直した」だけでなく、軸受仕様変更、冷却強化、支持構造・組立基準の見直しを比較し、再発リスク、施工時間、保全性を評価軸にしたと書きます。これにより、思いつきではなく技術的判断であることが伝わります。
4.関係者の制約と合意を書く
生産部門は停止時間、保全部門は作業性と部品共通化、メーカーは保証条件を重視します。それぞれの懸念を並べるだけでなく、「1台へ先行導入し、評価後に横展開する」と合意した着地点まで書きます。
5.成果を検証方法とセットにする
「改善した」ではなく、温度、振動、軸変位の試験、先行導入後の故障・停止記録など、効果を判断した指標を書きます。守秘義務のため実数を書けない場合も、「社内目標を満足した」など、確認方法は示せます。
改善後の完成例
本業務は、自動組立設備の駆動ユニットで繰り返し発生していた軸受損傷に対し、生産能力を維持しながら再発を防止する設計改善である。軸受損傷による停止は後工程への部品供給にも影響するため、突発停止の低減を目標とした。私は機械設計リーダーとして、原因分析、対策案の評価、製造・保全・部品メーカーとの調整及び検証計画を担当した。装置外形を変更できず、計画停止を2日以内に抑え、保全部品の共通性も維持する制約があった。振動・温度の履歴、損傷面の観察、軸及び支持部の寸法・組立精度を確認した結果、運転時の熱膨張による予圧変化、支持部の芯ずれ、潤滑状態が相互に影響して損傷を進行させることが技術的課題であった。私はFMEAで故障モードと影響を整理し、軸受仕様のみの変更、冷却能力の増強、支持構造と組立基準の見直しを、再発リスク、施工時間、保全性及び費用で比較した。単一対策では使用条件の変化に対応できないと評価し、支持部の局部剛性向上、組立基準の見直し及び潤滑条件の適正化を組み合わせた案を選定した。生産部門とは停止工程、保全部門とは交換作業性と予備品、メーカーとは使用条件と保証範囲を調整し、1台への先行導入後に効果を確認して横展開することで合意した。試験機と実設備で温度、振動、軸変位を評価し、社内基準を満足するとともに、評価期間中の突発停止を低減した。安全と品質を優先し、基準を超えた場合は従来の保全措置へ戻す条件も定めた。導入後も監視値と点検結果を定期的に確認し、得られた知見を同種設備の設計・組立基準へ反映している。
この例の数値・成果・役割は架空です。そのまま流用せず、ご自身が実際に担当し、根拠を説明できる内容へ置き換えてください。
コンピテンシーとの対応を確認する
コンピテンシーの名称を文章中に無理に書く必要はありません。行動として読み取れるかを確認します。
| 観点 | 完成例に現れている行動 |
|---|---|
| 専門的学識・問題解決 | 履歴、損傷面、寸法・精度から複合要因を分析した |
| 評価 | 複数案を再発リスク、施工時間、保全性、費用で比較した |
| マネジメント | 停止工程、予備品、検証と横展開の順序を計画した |
| コミュニケーション | 部門・メーカーごとの条件を確認し、共通理解を作った |
| リーダーシップ | 異なる制約の着地点として段階導入を提案し、合意した |
| 技術者倫理 | 生産性だけでなく、信頼性と再発リスクを評価した |
| 継続研さん | 知見を同種設備の設計・組立基準へ反映した |
詳しい定義は技術士に求められるコンピテンシーで確認できます。
口頭試験の質問を想定して仕上げる
「業務内容の詳細」は提出して終わりではありません。口頭試験では、書き切れなかった判断の根拠や本人の役割を説明できるようにします。
- なぜこの業務を選びましたか
- あなた自身が決定したのはどの部分ですか
- 原因分析で最も重視したデータは何ですか
- 採用しなかった案の利点と欠点は何ですか
- 関係者の意見が対立した点は何ですか
- 成果をどの期間・指標で評価しましたか
- 現在なら、どのように改善しますか
- 公益、安全、守秘義務にどう配慮しましたか
説明練習では、文章をそのまま読み上げるのではなく、目的・役割・課題・判断・成果を1分、2分、3分で話せるように整理します。口頭試験全体の対策は口頭試験の概要と対策をご覧ください。
提出前チェックリスト
- 受験年度の公式様式と案内を使っている
- 選択した業務経歴、選択科目、専門とする事項が対応している
- 720字以内で、図表を使っていない
- 目的、立場と役割、技術的内容及び課題、技術的成果が入っている
- 本人の役割と組織の成果を区別している
- 課題を複合要因と制約条件で説明している
- 複数案または判断の過程と評価軸がある
- 関係者と「何を合意したか」がある
- 成果の確認方法と、残るリスクが説明できる
- 略語・社内用語を専門外の人にも分かる表現へ直している
- 誇張や、業務経歴との不整合がない
- 口頭試験で各文の根拠を説明できる
まとめ
720字で大切なのは、情報を最大まで詰めることではありません。自分の役割、技術的課題、選択肢を評価した判断、関係者との合意、成果の確認を一つの流れにすることです。
最初から文章を書かず、6要素を箇条書きにしてから配分してください。最後に口頭で深掘りされたときの答えまで確認すると、申込書と口頭試験の準備を一体で進められます。
