技術士第二次試験の口頭試験で、業務経歴や「業務内容の詳細」を説明するよう求められたとき、どこまで話せばよいか迷う方は多いと思います。
この記事では、同じ業務を1分・2分・3分で説明できるように組み立てる方法を、機械設計の架空事例を使って具体的に解説します。丸暗記用の原稿を3本作るのではなく、説明の核を一つ作り、指定時間に合わせて情報を足し引きする方法です。
この記事でできるようになること
- 説明に必ず残す「核」を決める
- 1分・2分・3分の原稿を効率よく作る
- 自分の立場と判断を、組織の成果と区別して伝える
- 説明後の深掘り質問まで準備する
- 丸暗記に頼らず、対話として答える練習をする
注意:記事中の業務事例と説明例は、構成を理解するために作成した架空の例です。公式な模範回答ではありません。

なぜ1分・2分・3分の説明を用意するのか
技術士第二次試験の口頭試験は、筆記試験の合格者に対し、筆記答案と業務経歴を踏まえて行われます。総合技術監理部門を除く技術部門では、試問時間は20分で、必要に応じて10分程度延長できると実施大綱に示されています。
評価されるのは、コミュニケーション・リーダーシップ、評価・マネジメント、技術者倫理、継続研さんです。したがって、経歴を長く語ることよりも、限られた時間で、自分の役割・技術的判断・関係者との調整・成果を相手が追える順序で示すことが大切です。
詳しい制度と想定質問は口頭試験の概要と対策、筆記後からの準備手順は再現答案と口頭準備ノートもあわせてご覧ください。
実際の指示時間は当日の質問に従います。1分・2分・3分を準備する目的は、言い回しを3通り暗記することではなく、どこを削っても話の一貫性を保てる状態にすることです。
最初に「説明の核」を一つ作る
時間別の原稿を書く前に、業務を次の6要素に分解します。この6要素が、すべての長さに共通する説明の核です。
| 要素 | 説明する内容 | 試験官が確認しやすい点 |
|---|---|---|
| 1.目的・背景 | 何を、なぜ改善する業務だったか | 業務の全体像 |
| 2.立場・役割 | 組織の中で自分が担った責任 | 本人の実務経験 |
| 3.技術的課題 | 単純な対策では解けなかった理由 | 問題の複合性 |
| 4.判断・行動 | 選択肢、評価軸、採用理由、調整 | 評価・リーダーシップ |
| 5.成果・検証 | 結果を何で測り、残るリスクをどう扱ったか | 評価・マネジメント |
| 6.学び・今後 | 得た知見と次の改善 | 継続研さん |
単なる時系列ではなく、課題に対して何を判断し、その判断にどのような技術的根拠があったかを中心にします。「当社では」「チームで」だけで終わらず、「私は何を担当し、何を決めたか」を言えるようにします。
説明例に使う架空の業務
ここからは、次の機械設計業務を例にします。実際の準備では、ご自身が提出した業務経歴と「業務内容の詳細」に置き換えてください。
| 対象業務 | 自動組立設備の駆動ユニットで繰り返し発生した軸受損傷の再発防止 |
|---|---|
| 本人の立場 | 設計リーダー。原因分析、対策案の比較、関係部門との合意、検証計画を担当 |
| 制約 | 装置外形を変更できない、計画停止は2日以内、保全用部品の共通化を維持 |
| 主な課題 | 熱膨張、芯ずれ、潤滑状態が相互に影響し、単一原因として切り分けられない |
| 採用した方策 | 支持構造の剛性・組立基準の見直しと、潤滑条件の適正化を組み合わせる |
| 成果 | 段階導入と耐久評価を経て、架空の評価期間内で突発停止件数を低減 |
3分版を作り、そこから短くする
最初に情報量の多い3分版を作ります。その後、重要度の低い説明を削って2分版、1分版にします。短い原稿から作ると、あとで情報を足したときに論点が散りやすくなります。
| 時間 | 必ず残す内容 | 追加できる内容 |
|---|---|---|
| 1分 | 目的、本人の役割、最重要課題、判断、成果 | 原則として追加しない |
| 2分 | 1分版の内容 | 制約、比較した選択肢、関係者調整 |
| 3分 | 2分版の内容 | 原因分析、検証方法、残存リスク、学び |
話す速さは人によって異なります。原稿の文字数だけで決めず、実際に声に出して計時し、句読点で間を取っても指定時間内に収まる長さへ調整してください。
3分版|判断の根拠と検証まで話す
私が詳細業務として挙げたのは、自動組立設備の駆動ユニットで繰り返し発生していた軸受損傷の再発防止です。私は設計リーダーとして、原因分析、対策案の比較、製造・保全・部品メーカーとの調整及び検証計画を担当しました。
この業務では、装置外形を変えられず、計画停止を2日以内に抑え、既存の保全部品との共通性も維持する必要がありました。振動と温度の履歴、損傷品の観察及び組立精度の測定から、熱膨張による予圧変化、支持部の芯ずれ、潤滑状態が相互に影響していると判断しました。
対策は、軸受仕様のみの変更、冷却能力の増強、支持構造と組立基準の見直しを比較しました。私は、初期費用だけでなく、再発リスク、施工時間、保全性を評価軸として整理し、支持構造の局部剛性向上、組立基準の見直し及び潤滑条件の適正化を組み合わせる案を提案しました。生産部門とは停止時間、保全部門とは作業性と部品共通化、メーカーとは保証条件を調整し、段階導入で合意しました。
試験機で温度、振動及び軸変位を確認した後、1台へ先行導入し、所定の評価期間で異常傾向がないことを確認して横展開しました。結果として突発停止を低減できました。一方、使用条件の変化による再発リスクは残るため、監視値と点検結果を定期的に評価し、設計基準へ反映する運用を継続しています。この経験から、複合要因の問題では、技術対策と関係者の制約を同じ評価表で扱うことが重要だと学びました。
3分版では、業務の大きさを誇るのではなく、複数の制約下で選択肢を比較し、関係者と合意し、検証した過程を示します。数値を使う場合は、提出書類や社内記録と矛盾しないものだけにします。
2分版|比較と調整を残す
私が詳細業務として挙げたのは、自動組立設備の駆動ユニットで繰り返し発生した軸受損傷の再発防止です。私は設計リーダーとして、原因分析、対策案の比較、関係部門との調整及び検証計画を担当しました。
装置外形を変えられず、停止を2日以内に抑え、保全部品の共通性も維持する制約がありました。履歴データと損傷品の調査から、熱膨張、芯ずれ、潤滑状態の相互作用が主因と判断しました。軸受仕様の変更、冷却能力の増強、支持構造と組立基準の見直しを、再発リスク、施工時間、保全性で比較し、支持構造の剛性向上、組立基準の見直し、潤滑条件の適正化を組み合わせました。
生産部門とは停止時間、保全部門とは作業性、メーカーとは保証条件を調整し、1台への先行導入後に横展開することで合意しました。温度、振動、軸変位で効果を確認し、突発停止を低減しました。導入後も監視値と点検結果を評価し、設計基準へ反映しています。
2分版では、細かな検査手順を削っても、なぜその方策を選んだか、誰と何を合意したかは残します。これが「対策を実施しました」だけの説明との差になります。
1分版|業務の骨格だけを通す
私が詳細業務として挙げたのは、自動組立設備の駆動ユニットで繰り返し発生した軸受損傷の再発防止です。私は設計リーダーとして、原因分析、対策選定及び関係部門との調整を担当しました。
履歴データと損傷品の調査から、熱膨張、芯ずれ、潤滑状態の相互作用を主な課題と判断しました。複数案を再発リスク、停止時間、保全性で比較し、支持構造と組立基準の見直しに潤滑条件の適正化を組み合わせました。生産・保全・メーカーと段階導入を合意し、温度、振動、軸変位で効果を確認した結果、突発停止を低減できました。現在も監視結果を設計基準へ反映しています。
1分版は、詳しい技術説明への入口です。すべてを説明しようとせず、試験官が「原因はどう特定したのですか」「比較した案を詳しく教えてください」と質問できる余地を残します。
時間配分の目安
| 説明の部品 | 1分版 | 2分版 | 3分版 |
|---|---|---|---|
| 目的・立場 | 約15秒 | 約20秒 | 約25秒 |
| 課題・制約 | 約15秒 | 約30秒 | 約45秒 |
| 判断・対策 | 約20秒 | 約45秒 | 約70秒 |
| 調整・検証 | 要点のみ | 約20秒 | 約30秒 |
| 成果・今後 | 約10秒 | 約15秒 | 約20秒 |
これは練習用の目安であり、公式の配分ではありません。途中で質問されたら説明を止め、相手の質問に結論から答えます。原稿を最後まで読み切ることが目的ではありません。
説明の直後に備える深掘り質問
説明原稿だけでは、口頭試験対策は完成しません。次の質問に、30秒程度で答えられるメモを用意します。
- なぜこの業務を「業務内容の詳細」に選びましたか
- 原因をどのようなデータで特定しましたか
- 採用しなかった案と、その理由は何ですか
- あなた自身が判断した部分はどこですか
- 利害が対立した関係者と、何を合意しましたか
- 使える人員・費用・時間をどう配分しましたか
- 成果をどの指標で評価しましたか
- 残ったリスクと、その管理方法は何ですか
- 公益や安全の観点で優先したことは何ですか
- この経験を現在の業務や継続研さんにどう生かしていますか
質問をコンピテンシー別に整理したい方は、技術士に求められるコンピテンシーも確認してください。
伝わりにくい説明の5つの共通点
- 経歴を古い順に読み上げる
業務の一覧ではなく、代表業務の判断と成果を中心にします。 - 「当社」「チーム」が主語になっている
組織の成果と、自分が担った役割を分けます。 - 専門用語を詰め込む
用語の多さより、課題と対策の因果関係を優先します。 - 成功だけを話す
制約、採用しなかった案、残存リスクまで説明できると判断の妥当性が伝わります。 - 提出書類にない成果を盛る
業務経歴との不整合は深掘りで崩れます。事実と確認できる範囲で作ります。
30分で作る練習シート
| 作業 | 記入する内容 |
|---|---|
| 5分 | 目的、本人の役割、成果を各1文で書く |
| 10分 | 課題、選択肢、評価軸、採用理由を箇条書きにする |
| 5分 | 関係者、対立点、合意内容を整理する |
| 5分 | 3分版から、2分版・1分版で削る行に印を付ける |
| 5分 | 録音して、時間、早口、主語、専門用語を確認する |
原稿ではなく見出しカードで練習する
最後は全文原稿を見ず、「目的」「役割」「課題」「判断」「調整」「成果」の6語だけを見て説明します。言葉が少し変わっても筋が通る状態になれば、途中で質問が入っても戻れます。
最終チェックリスト
- 提出した業務経歴と事実関係が一致している
- 冒頭15秒で、業務の目的と自分の立場が分かる
- 技術的課題が「難しかった」以外の言葉で説明できる
- 複数案を比較した評価軸が言える
- 「協議した」ではなく、誰と何を合意したかが言える
- 成果を確認した指標と残存リスクが言える
- 1分版を聞いても、課題・判断・成果の筋が通る
- 途中で止められたら、すぐ質問への回答に切り替えられる
- 専門外の試験官にも伝わる言葉へ言い換えている
- 暗唱ではなく対話の速度で話せる
まとめ
1分・2分・3分の説明は、別々の物語ではありません。目的、役割、課題、判断、成果という同じ核を保ち、時間に応じて根拠・調整・検証を足し引きするものです。
まず3分版で業務の全体像を整理し、2分版では比較と調整を残し、1分版では骨格だけを通してください。説明後の深掘り質問まで準備すると、暗記した原稿を読む練習から、技術士として判断を説明する練習に変わります。
