技術士の口頭試験で技術者倫理を問われたとき、法律や綱領を暗唱するだけでは、自分がどう判断し行動するのかが伝わりません。
この記事では、事実確認・影響評価・優先原則・具体行動・再発防止の5段階で倫理的な判断を説明する方法を、機械設計の架空事例で解説します。
回答の基本
「安全を優先します」で終わらず、誰にどのような影響があるかを評価し、代替案を提示して関係者と解決するところまで話します。

技術士法の義務・責務から確認したい方は、先に技術者倫理と3義務2責務をご覧ください。本記事は、その知識を口頭回答へ変える練習に特化します。
口頭試験で確認される技術者倫理
技術士に求められるコンピテンシーでは、公衆の安全、健康及び福利を最優先し、社会や環境への影響を予見しながら倫理的に行動することが求められています。
技術士法には信用失墜行為の禁止、秘密保持義務、公益確保の責務などが定められています。日本技術士会の倫理綱領では、リスクを評価して業務の妥当性を客観的に検証し、公衆への影響がある場合は関係者へ代替案を提案して解決を図る考え方が示されています。
「守るもの」が複数あるときに倫理判断が必要になる
| 守る対象 | 具体例 | 注意する点 |
|---|---|---|
| 公衆 | 安全、健康、生活、環境 | 依頼者や組織の都合より優先する |
| 依頼者・雇用者 | 品質、納期、費用、営業秘密 | 正当な利益と秘密を守る |
| 専門職としての信用 | 客観性、誠実な報告、力量の範囲 | 不都合な事実も根拠に基づき伝える |
| 将来世代 | 環境負荷、資源利用、長期的影響 | 短期効果だけで判断しない |
守秘義務があるから安全上の問題を黙る、公益を守るためなら社外秘を無条件で公開する、といった単純な二択ではありません。まず組織内の正式な報告経路を使い、必要な範囲で事実を共有し、改善へつなげます。
倫理的判断を5段階で説明する
| 段階 | 確認すること | 口頭回答に入れる内容 |
|---|---|---|
| 1.事実確認 | 要求、データ、基準、権限 | 推測と確認済み事実を分ける |
| 2.影響評価 | 誰に、どの程度、いつ影響するか | 安全・健康・環境・品質への影響 |
| 3.優先原則 | 法令、公益、契約、守秘、専門能力 | 何を優先し、なぜそう判断したか |
| 4.具体行動 | 停止、追加確認、報告、代替案 | 誰へ伝え、どの着地点を提案するか |
| 5.再発防止 | 記録、標準、教育、監視 | 個人の判断で終わらせない仕組み |
回答では、最初に結論を述べます。その後、影響と根拠、関係者への働きかけ、再発防止を続けると、判断から行動までが伝わります。
架空事例1|納期のために耐久試験を省略してほしいと言われた
新しい搬送装置で部品変更後の耐久試験が遅れ、営業部門から予定どおり出荷するため試験の一部を省略できないか相談された場面を考えます。
弱い回答
安全が大切なので、試験を省略せずに実施します。上司にも相談します。
方向性は間違っていませんが、影響の評価、判断根拠、納期制約への代替案がありません。
改善した回答例
安全性を確認できない状態での出荷には同意しません。まず変更部品の故障モードと影響を確認し、法令・社内基準・顧客仕様に対する未確認項目を明確にします。重大故障が人へ及ぼす可能性がある場合は、品質責任者と上司へ事実とリスクを文書で報告します。そのうえで、評価設備の追加、試験項目の並行実施、影響の小さい範囲への限定納入など、安全性を損なわない代替案を関係者へ提示します。判断過程と試験結果を記録し、変更管理の手順へ反映します。
「拒否する」だけでなく、事実確認、正式な報告、実行可能な代替案、記録まで含めています。限定納入などの方策を使えるかは製品と契約条件によって異なるため、実際の業務では適用条件を確認します。
架空事例2|不都合な試験結果を報告から外すよう求められた
測定条件とデータ処理に誤りがないかを確認し、再現試験が必要なら実施します。結果が有効と確認できた場合は除外せず、発生条件、影響範囲、不確かさを含めて報告します。依頼者には結論だけでなく、判断に必要な事実を説明し、設計変更または使用条件の見直しを提案します。組織の都合で事実を曲げることは、利用者の安全と専門職への信用を損なうため行いません。
技術士倫理綱領では、報告や説明に客観的で事実に基づく情報を用いることが示されています。異常値を直ちに正しいと決めつけず、測定の妥当性を確認する点も重要です。
架空事例3|口頭試験で守秘情報を聞かれた
口頭試験で業務内容を詳しく説明するときも、正当な理由なく業務上の秘密を漏らしてはいけません。一方、秘密だから何も話せないという回答では、自分の判断が伝わりません。
顧客名と固有の製品仕様は守秘義務のため申し上げられませんが、私が担当した技術的判断は一般化して説明できます。対象は連続稼働する搬送設備で、私は設計責任者として故障モードの分析と対策案の比較を担当しました。安全要求と停止時間の制約を評価し、構造変更と監視方法を組み合わせました。
伏せる情報と説明できる情報を分けます。固有名詞、数量、性能値を一般化しても、目的、本人の役割、課題、評価軸、成果は説明できます。口頭試験の関係者には法令上の秘密保持義務がありますが、受験者側も所属組織との契約や守秘義務を守って準備してください。
30秒回答の型
- 結論:私は〇〇を優先します
- 影響:放置すると誰にどの影響があるか
- 根拠:法令、基準、公益、客観的データ
- 行動:事実確認、報告、代替案、合意
- 再発防止:記録と標準への反映
時間が短い場合は、結論・影響・行動を残します。「倫理に従います」「コンプライアンスを守ります」といった抽象語だけで終わらせないようにします。
想定質問と答えに入れる要点
| 想定質問 | 答えに入れる要点 |
|---|---|
| 公益とは何ですか | 公共の安全、環境の保全など、社会全体に関わる利益 |
| 上司の指示と安全が対立したらどうしますか | 事実とリスクを示し、正式に報告して代替案を提案する |
| 品質データの異常を見つけたらどうしますか | 測定妥当性を確認し、有効な結果は除外せず影響範囲を報告する |
| 守秘義務と公益が対立したらどうしますか | 情報を必要範囲に限定し、組織の正式経路と法令に従って対応する |
| 専門外の判断を求められたらどうしますか | 能力の範囲を明示し、必要な専門家の助言を得る |
| 納期と安全の両立をどう図りますか | 安全要求を下げず、工程・資源・評価方法の代替案を比較する |
| 不確実なリスクをどう扱いますか | 仮定と不確かさを明示し、追加確認と暫定措置を決める |
| 失敗をどのように報告しますか | 事実、影響、暫定対応、原因、恒久対策を分けて伝える |
弱い回答になりやすい5つのパターン
- 法律の条文を暗唱して終わる
具体的にどう行動するかがありません。 - すぐ上司へ相談するとだけ答える
相談前の事実確認と、自分の技術的判断を示します。 - 安全を理由にすべて止める
リスクの程度を評価し、安全を確保する代替案を検討します。 - 会社の秘密なので答えられない
秘密情報を伏せ、判断過程を一般化して説明します。 - 個人の正義感だけで行動する
法令、客観的データ、組織の正式な報告経路を使います。
自分の業務から倫理事例を3件用意する
重大事故を経験していなくても、日常業務には倫理判断があります。次の観点で振り返ってください。
- 安全、品質、納期、費用の優先順位を決めた場面
- 不確かなデータや異常値をどのように扱ったか
- 顧客・製造・保全など、異なる利害をどう調整したか
- 守秘情報を必要な関係者へどの範囲で共有したか
- 専門外の事項について誰の支援を求めたか
- 失敗や不具合を標準、教育、再発防止へ反映したか
一つの事例につき、「事実・影響・優先原則・行動・再発防止」を1行ずつ書き、30秒版と1分版を作ります。業務説明そのものは業務経歴を1分・2分・3分で説明する方法を参考にしてください。
最終チェックリスト
- 結論が最初にある
- 影響を受ける人や範囲を具体化した
- 事実と推測を分けた
- 安全・健康・福利や環境への影響を評価した
- 守秘義務と必要な情報共有を両立している
- 法令・基準・客観的データを判断根拠にした
- 関係者へ示す代替案がある
- 報告先と合意する内容が分かる
- 記録、標準化、教育などの再発防止がある
- 自分の権限と専門能力の範囲を超えていない
まとめ
技術者倫理の回答では、正しい言葉を知っているだけでなく、対立する要求の中で何を優先し、誰へ働きかけ、どのように解決するかを示します。
「事実確認・影響評価・優先原則・具体行動・再発防止」の順に自分の経験を整理してください。コンピテンシー全体との関係は技術士に求められるコンピテンシー、口頭試験全体は口頭試験の概要と対策で確認できます。
