本連載記事では、約6カ月の勉強期間で、技術士2次試験(筆記)に合格するためにやるべきことをまとめています。

第2ステップ~第4ステップでは、過去問分析から試験問題の予想までを行います。本日は、第3ステップである「資料分析」について解説いたします。前回は、過去問題を分析することで出題傾向をつかみました。「資料分析」では、「出題傾向の裏付け」と「過去問題以外の出題の可能性」について検討します。
これらを行うことによって、
- 何に基づいて出題されているかを確認し、
- 元となる資料から他にどんな問題が出題される可能性があるかを検討できます。
結果として、試験対策すべき問題(テーマ)の予想精度を向上させることができます。早速、始めていきましょう。
注)本連載では、2次試験の中の論文対策のみについて触れています。「試験申込書の作成方法」や「口頭試験対策」、「試験対策講座の比較」についても別記事で解説していますのでよろしければご参考にしてください。
資料分析の流れ
資料分析の流れは、大きく3段階になります。
- 関連白書等資料の収集
- 関連白書等資料の分析
- 【重要】専門誌や業務から問題と解答ネタを探す習慣について
目的は、主に「問題の傾向把握」です。順に見ていきましょう。
関連白書等資料の収集
技術士は国家資格です。したがって、出題傾向を把握するために分析すべき主な資料は国・省庁の発行する白書になります。以下に主要な白書を挙げます。
- 水循環白書 内閣官房
- 経済財政白書 内閣府
- 原子力白書 内閣府
- 防災白書 内閣府
- 高齢社会白書 内閣府
- 消費者白書 消費者庁
- 少子化社会対策白書 こども家庭庁
- 地方財政白書 総務省
- 情報通信白書 総務省
- 公害紛争処理白書 公害等調整委員会
- 開発協力白書・ODA白書外務省
- 科学技術白書 文部科学省
- 労働経済白書 厚生労働省
- 食料・農業・農村白書 農林水産省
- 森林・林業白書 林野庁
- 水産白書 水産庁
- 通商白書 経済産業省
- 製造基盤白書(ものづくり白書) 経済産業省
- エネルギー白書 資源エネルギー庁
- 特許行政年次報告書 特許庁
- 中小企業白書 中小企業庁
- 国土交通白書 国土交通省
- 土地白書 国土交通省
- 首都圏整備に関する年次報告(首都圏白書) 国土交通省
- 交通政策白書 国土交通省
- レポート海難審判 海難審判所
- 運輸安全委員会年報 運輸安全委員会
- 環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書環境省
上記の中から自身の部門に関連する白書(最新版)を収集しましょう。また、環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書と高齢社会白書、エネルギー白書はどの部門にとっても重要な社会課題について書かれています。詳細な分析までは手を回す必要はありませんが、一読はしておくべきです。
関連白書等資料の分析
次に、白書の内容から対策すべきテーマがあるか調べていきます。次の2段階の手順で進めましょう。
- 過去問題と白書の照合
- テーマやキーワードの抽出
過去問題と白書の照合
最初に、過去問題をまとめたリストを照らし合わせて白書の内容と過去問題のテーマが一致しているかを確認します。(分析すべき白書が正しいかを確認しましょう。)
例えば、下記はR7年度機械部門(選択:機械設計)の問題です。

機械部門を含む製造業系の部門の重要白書は、ものづくり白書です。
2025版のものづくり白書概要版の目次によると、主な内容は「人材」「教育」「競争力強化」であることが分かります。

次に13-14ページで概要がまとめられています。

とにかく競争力、脱炭素、経済安全保障の重要性が語られており、そのためにDX(ロボット、AI)やサプライチェーン強靭化が必要な取り組みとして挙げられています。必須Ⅰと選択Ⅱ-2、選択Ⅲについてはこのあたりから出題されていることが分かります。
(選択Ⅱ-1については部門の基礎的なものから応用までと範囲が広いため白書を含めた資料との対応を探るのは困難でしょう。しかし、R6年には「CAEの誤差について」やR7年には「最適化の分類」などの問題が入っているためDX(機械設計においてはシミュレーションの活用)が重要という傾向が反映されているように思います。)
このような分析からものづくり白書と機械部門の試験問題の連関が推定できます。
テーマやキーワードの抽出
次に、白書の内容と過去問題を眺めながらさらに抽出すべきテーマやキーワードがないかチェックします。
様々な観点がありますが実例を見ていただくのが分かりやすいと思いますので、実際のテーマキーワード抽出の流れをご覧ください。
R6年度の選択Ⅲに下記のような問題がありました。
我が国では、少子高齢化により労働者人口の減少に歯止めが掛からず、あらゆる産業において人手不足が懸念されている。一方、働き方改革を推進するためには1人当たりの生産性を高める動きが必要であり, DX (Digital Transformation)に代表されるデジタル化が進むことで、様々な作業の自動化、自律化につながることが期待される。既に遠隔操縦できる装置や、操作支援機能を有する設備、無人の生産ライン工場,等が存在するが、今後は人が働く様々な現場において生産性向上を図るうえで、人と一緒に作業を行う協働ロボットの開発が重要となる。
(1) あなたは協働ロボットの設計者として、まず、使用する場所と目的を具体的に想定して説明せよ。次に、協働ロボットとしての制約条件を考慮して、多面的な観点から3つの課題を抽出し、それぞれの観点を明記したうえで、その課題の内容を示せ。
(2) 前問 で抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、これを最も重要とした理由を述べよ。また、その課題に対する複数の解決策を設計者の立場から示せ。
(3)前問で示したすべての解決策を実行しても新たに生じうるリスクとそれへの対策について、専門技術を踏まえた考えを示せ。
出典:公益社団法人日本技術士会
2024年版のものづくり白書でもDXは重要テーマでしたのでその中から「労働者不足対策として協働ロボットの設計」という問題が作られたのだと思います。

ロボットという視点で見ると2025年版ものづくり白書では「少量多品種市場へのロボット導入」や「オープンな開発環境を活用しつつ、ハードとソフトのモジュール化による柔軟かつ効率的なロボットシステムの開発」などが望まれています。
2025年版ものづくり白書 P165


こういった問題は機械部門(選択科目:機械設計)では出題されていないため抽出すべきテーマキーワードとなるでしょう。つまり、この分析からは「多品種少量生産市場にロボットを導入する際の課題」というテーマが抽出できます。
このように、大枠のテーマ(機械部門にとってのDXやロボット)の中でもう一段細分化した際にまだ問題になっていないテーマに注目しながら分析してみましょう。
白書と過去問題をまとめたリストを見比べながら「自分が出題者だったら次はどんな問題にするかなあ」という気持ちで進めると良い感じです!
出題者側としても、ごく一部の受験者しか回答できないような問題を出すわけにはいかないとなると白書のような公的資料に記載があるテーマ課題を使うしかありません。また、白書は毎年発行されていますが大きなテーマは急に変わることはなく数年かけて徐々に変更になっていきます。
そんな中で毎年被らないように試験問題を作るのは結構大変です。つまり正しく白書を分析できればかなりの精度で問題テーマを予想できることになります。
【重要】専門誌や業務から問題と解答ネタを探す習慣について
最後は、白書と過去問題以外の資料についてです。問題の大きなテーマについては白書を調べておけば問題ないでしょう。しかし、大きなテーマと自身の部門・専門にどうつながっているか分からないこともあるはずです。

抽象的な上からの情報は白書で調べたので、具体的な情報やアイデアについても調べる必要があります。部門や専門、業務の立場毎にいろいろな方法が考えられますが、次の二つは多くの方に共通する内容かと思います。
- 専門誌・学会誌
- 日常業務
専門誌・学会誌で定点観測
専門誌や学会誌を頼る理由は「定点観測」です。普段の業務で分野全体の動向をチェックするのは困難です。技術進歩は早く、数年前は困難な技術が現在では普通にできるようになっていることが当たり前のようにおきています。また、多かれ少なかれ技術進歩の動向は白書との相関があります。専門誌や学会誌をうまく使って定点観測をしてみましょう。
今回の例【機械部門(選択科目:機械設計)】についていえば月刊誌機械設計(出版社:日刊工業新聞社)や日本機械学会誌(日本機械学会)などが対象になるでしょう。

たまたまではありますがちょうどいい例として、月刊誌機械設計2025年8月号(発売日7月10日)で特集されていた内容が2025年の技術士2次試験筆記問題に出題されていた例を紹介します。
2025年2次試験筆記 機械部門(機械設計)の選択Ⅱ‐1で下記の問題が出題されました。
Ⅱ-1-3 構造最適化は大きく,寸法最適化,形状最適化,トポロジー最適化に分類さ れる。先端に集中荷重が作用する片持ちはりを例にとり,それぞれの構造最適化につい て24字×8行の範囲に図を描き、相違点を明らかにして説明せよ。
出典:公益社団法人日本技術士会
この試験の直前の月刊誌機械設計では「CAE・シミュレーション活用」の特集が掲載されていました。この特集内の中北製作所さんの企業事例(P38~45)でまさに構造最適化についての解説が載っていました。(下図)

出典:機械設計 2025年8月号 (発売日2025年07月10日) 日刊工業新聞社
たまたまではありますが、日頃の研鑽が合格につながる良い例かと思いますので紹介しました。
日常業務を論文で使える形に言語化
もう一つは日常業務です。技術士に求められるコンピテンシー「専門的学識」とは「専門知識を理解し、応用すること」です。重要なのは応用で、培った専門知識を活かして、論文テーマの中で解決策を提案することが求められます。
つまり、あなたの普段の業務を一般化(抽象化)してそれを論文テーマの中で使えるようにしないといけません。業務では経験的にやっていることが実は科学的手法だったということはよくあります。日常業務をよく整理して言語化・プロセス化する習慣をつけてください。
結局のところ、あなたの経験に基づいた論文が最も具体的で説得力を持ちます。
最後に|出題者の意図を考えよう
本日は、資料の分析について解説しました。簡単に言ってしまえば「関連白書をただ読んで理解するだけではもったいないので過去問を軸に比較しながら出題者の意図を探ろう」という話ですね。
また、定点観測的に情報収集できる月刊の専門誌は非常に重要だと思っております。出題者的には「技術士になって研鑽を続けるような人は自分の専門の月刊誌くらい読んでいるだろうからそこから問題を出してあげよう」ということなのかもしれませんしね。
分析の結果は、次の第4ステップ「問題予想」で活用し、どのテーマを中心に学習を進めるかの決定につなげることになります。
それでは次の「問題予想」へ進みましょう。