令和8年度技術士第二次試験・機械部門「機械設計」の選択科目Ⅱ-2-1を題材に、問題文の読み取りから答案骨子、2枚答案の完成までを順番に解説します。
今回のテーマは、リモートモニタリングによる機械設備の状態監視です。対象を「自動車部品量産ラインの横形マシニングセンタ」と設定し、高速主軸の損傷を早期に捉える計測システムを設計します。
完成答案を暗記するのではなく、計測項目と損傷モードをどう結び付け、限られた2枚に何を残すかに注目して読み進めてください。
この記事で確認できること
- Ⅱ-2の設問を答案の部品に分解する方法
- 計測項目・損傷モード・重要性を一貫させる方法
- 「センサを付ける」から計測システム設計へ具体化する方法
- 関係者調整でリーダーシップを示す方法
- 骨子を約1,200字の答案へ展開する方法
注意:本記事の解答例は、学習用に作成した一例であり、日本技術士会が公表した公式解答ではありません。
選択科目Ⅱの出題形式やコンピテンシーから確認したい方は、先に選択科目Ⅱの基本的な書き方をご覧ください。
令和8年度・機械設計Ⅱ-2-1の問題
機械製品や設備の高度化、停止損失の拡大を背景に、予防保全やリスク管理を目的としたリモートモニタリングの必要性が高まっている。設計部門のリーダーとして、機械的な損傷や劣化を防ぐため、リモートモニタリングによる状態監視を導入した機械設備を設計する。
設問では、①対象設備、導入メリット、複数の重要な計測項目、それぞれで検出する損傷モードと重要性、②最重要計測項目のデータ取得方法、計測システムの設計事項、留意点・工夫、③関係者との調整方法が求められている。
問題の要旨:公益社団法人 日本技術士会「令和8年度 技術士第二次試験問題〔機械部門〕機械設計」Ⅱ-2-1
正確な問題文は、日本技術士会の公式問題PDF(2ページ目)で確認できます。
最初の60秒で設問を分解する
Ⅱ-2では、知っている技術を並べる前に、自分の立場と要求事項を固定します。今回の制約条件は次のとおりです。
| 確認項目 | 答案に必要な内容 |
|---|---|
| 立場 | 設計部門のリーダー |
| 対象 | リモート監視が有効な具体的な機械設備 |
| 設問(1) | 導入メリット、複数の計測項目、損傷モード、重要性 |
| 設問(2) | 最重要項目、取得方法、システム設計、留意点・工夫 |
| 設問(3) | 関係者の役割・利害と具体的な調整方法 |
| 答案量 | 600字詰め答案用紙2枚 |
この表を作るだけで、書き忘れを防げます。特に設問(1)の「計測項目」と「損傷モード」、設問(2)の「留意点」と「工夫」をセットで扱うことが重要です。
今回想定する機械設備
24時間稼働する横形マシニングセンタ
対象は、自動車部品の量産ラインで使用する横形マシニングセンタの高速主軸とします。主軸が突発停止すると、設備停止だけでなく、加工精度の低下による連続不良や後工程への供給停止につながります。
- 現状:時間基準保全と巡回点検が中心で、劣化の進行を連続的に把握できない
- 目指す状態:損傷の兆候を早期に検出し、計画停止中に点検・交換できる
- 導入目的:突発停止、連続不良、過剰な定期交換及び巡回点検工数を減らす
設備、故障したときの影響、監視導入後の姿まで最初に決めると、後続の計測項目や関係者調整が具体的になります。
弱い答案になりやすい4つの書き方
- 「センサやAIを導入する」で終わる
何を測り、どの損傷を、どの時点で検出するかがありません。 - 計測項目と損傷モードが対応していない
振動、温度、電流を列挙しても、それぞれの技術的な役割が不明確です。 - 通信方式ばかり詳しく書く
IoTの説明だけでは、機械設計分野の応用能力が伝わりません。 - 「関係者と協議する」で終わる
誰と何を調整し、何を合意するのかまで必要です。
本問の主役は機械設備の損傷と劣化です。通信やデータ処理は、それを正しく検出して保全判断へつなげるための手段として扱います。
計測項目と損傷モードを対応させる
| 計測項目 | 検出する損傷・異常 | 重要性 |
|---|---|---|
| 軸受箱の振動加速度 | 軸受内外輪・転動体の剥離、アンバランス、芯ずれ、緩み | 温度上昇前から異常周波数が現れ、早期検出に使える |
| 軸受・潤滑油温度 | 潤滑不足、過大予圧、冷却不良、焼付き | 熱変位による精度低下と主軸の重大損傷を防ぐ |
| 主軸モータ電流・負荷率 | 工具摩耗・欠損、切りくず巻付き、過切削、駆動系異常 | 加工条件の変化と設備劣化を切り分ける補助情報になる |
| オイルエア圧力・流量 | 配管閉塞、漏れ、ポンプ異常 | 急速な焼付きにつながる潤滑喪失を直接監視できる |
最重要計測項目は振動加速度
最重要項目には、前後軸受箱の振動加速度を選びます。高速回転軸受では、温度が明確に上昇する前から損傷固有の振動成分が現れることがあります。また、軸受損傷だけでなく、アンバランス、芯ずれ、緩みなど複数の機械的異常を検出できます。
「振動は一般的だから」では理由になりません。早期性、検出できる損傷の範囲、設備停止への影響を根拠に最重要と説明します。
2枚答案の配分を先に決める
答案用紙2枚にすべてを書くため、詳細検討の前に文字量を配分します。目安は次のとおりです。
| 設問 | 目安 | 残す情報 |
|---|---|---|
| (1)対象・メリット・計測項目 | 約400字 | 対象設備、停止影響、4項目の対応関係 |
| (2)振動計測システム | 約600字 | 取得、処理、判定、検証、誤報・通信断対策 |
| (3)関係者調整 | 約200字 | 関係者、調整事項、合意内容、横展開 |
設問(2)は最も技術力を示しやすいため、全体の約半分を使います。一方、設問(1)でセンサの一般説明を長く書くと、システム設計と調整方策が薄くなります。
振動計測システムを具体化する
1.センサと取得条件
- 前後軸受近傍の剛性が高い軸受箱へ三軸圧電式加速度センサを固定する
- 主軸回転パルス、回転数、工具番号及び切削条件と時刻同期して取得する
- 軸受損傷周波数を捉えられる周波数帯域、感度及び動的範囲を選ぶ
- 必要なサンプリング周波数を確保し、アンチエイリアス処理を行う
- 取付共振、電磁ノイズ、冷却液、熱及び個体差を考慮する
2.特徴量と異常判定
エッジ端末で、振動の実効値(RMS)、波高率、FFT、包絡線解析及び回転次数解析を行います。軸受の外輪・内輪損傷周波数など、損傷モードと結び付く成分を監視します。
切削中の振動を軸受異常と誤認しないよう、空転・加工、回転数、工具及び加工条件ごとに正常基準を設定します。振動だけで即停止させず、温度・電流との整合を確認して「注意」と「危険」の二段階で判定します。
3.通信量と診断性を両立する工夫
振動の原波形を常時送信すると、通信量と保存容量が増えます。通常時は特徴量と傾向値だけを送信し、しきい値超過の前後のみ原波形を保存します。これにより通信量を抑えながら、異常発生時には詳しい原因診断ができます。
4.見逃しと誤報を試験で減らす
- 故障履歴とFMEAから、監視対象、検出限界、許容する見逃し・誤報率を要求仕様にする
- 正常運転データと、過去故障データ・交換部品の分解所見を関連付ける
- 安全を確保した試験装置で模擬異常を与え、特徴量としきい値を検証する
- 実機1台へ試行導入し、点検結果と照合してしきい値を更新する
- 効果を確認した後、変更管理を経て同型設備へ横展開する
「異常データを集める」は、稼働中の生産設備を故意に壊すという意味ではありません。過去データ、交換部品の所見、安全な試験及び段階導入を組み合わせます。
5.通信断とセキュリティへの対処
監視系は既存の安全インターロックから分離し、通信が途絶しても機械保護機能を維持します。端末側に一時保存機能を持たせ、復旧後に欠測分を送信します。また、OTネットワークの分離、機器認証、通信暗号化、アクセス権限、更新手順を設計要件に含めます。
関係者調整は「何を合意するか」まで書く
| 関係者 | 調整する内容 |
|---|---|
| 保全部門 | 故障履歴、分解所見、警報後の点検・交換基準 |
| 加工・品質部門 | 加工条件、寸法不良、誤報と見逃しの許容範囲 |
| 製造部門 | 許容停止時間、センサ取付工事、実証日程 |
| IT・OT担当 | 接続構成、権限、保存期間、セキュリティ更新 |
| 設備・センサメーカー | 設置方法、校正、保証範囲、保守性 |
設計リーダーは、FMEAと要求仕様を共同レビューし、警報レベルごとの連絡・停止・点検基準と責任分担を合意します。さらに、突発停止件数、誤報率、異常検出から点検までのリードタイムをKPIとして、技術効果と投資効果を評価します。
答案骨子を一表にまとめる
| 項目 | 記述する内容 |
|---|---|
| 対象 | 量産ラインの横形マシニングセンタ高速主軸 |
| メリット | 突発停止・連続不良・過剰交換・巡回工数を低減 |
| 計測項目 | 振動、温度、モータ電流、オイルエア圧力・流量 |
| 最重要 | 軸受箱の振動加速度 |
| 取得 | 三軸加速度センサ、回転・加工条件と同期 |
| 処理 | RMS、波高率、FFT、包絡線、回転次数 |
| 留意点 | 取付共振、ノイズ、環境、誤報、通信断、安全分離 |
| 工夫 | 運転状態別基準、複数情報の整合、異常時のみ原波形保存 |
| 調整 | 関係部門と警報後の行動・責任・KPIを合意 |
骨子の段階で、設問(1)から(3)が一本の流れになっているか確認します。「振動を測る」と決めたのに、後半で温度センサだけを詳しく説明するようなねじれを防ぎます。
解答例
1.対象設備と計測項目
対象は自動車部品量産ラインの横形マシニングセンタの高速主軸とする。故障はライン停止と加工精度低下による連続不良を招く。劣化傾向から保全時期を予測して計画停止でき、停止損失、過剰な定期交換、巡回点検を減らせる。
①前後軸受箱の振動加速度:内・外輪や転動体の剥離、アンバランス、芯ずれ、緩みを検出する。温度上昇前から異常周波数が現れるため最重要とする。②軸受・潤滑油温度:潤滑不足、過大予圧、冷却不良、焼付きを捉え、熱変位による精度低下と主軸破損を防ぐ。③主軸モータ電流・負荷率:工具摩耗・欠損、切りくず巻付き、過切削、駆動系異常を捉え、振動増加が加工条件か設備劣化かを判別する補助情報となる。④オイルエア圧力・流量:閉塞、漏れ、ポンプ異常を検出し、急速な焼付きに至る潤滑喪失を直接監視する。
2.振動計測システム
前後軸受近傍の剛性が高い軸受箱に三軸圧電式加速度センサを固定し、主軸回転パルス、回転数、工具番号及び切削条件と同期取得する。軸受損傷周波数を捉える帯域・動的範囲を選び、十分なサンプリングとアンチエイリアス処理を行う。エッジ端末でRMS、波高率、FFT、包絡線及び回転次数を演算し、通常は特徴量と傾向値、警報時は前後の原波形を保存・送信して通信量を抑える。
手順は、①故障履歴とFMEAから監視対象、検出限界、見逃し・誤報率及び警報後の処置を要求化、②正常データ、過去故障データ及び分解所見を収集、③回転数、工具、加工状態別に基準値を設定、④安全な模擬異常試験、加工試験、分解所見で検証、⑤試行導入後にしきい値を更新する。
切削振動の誤認を避けるため、空転時と加工時を分け、回転次数と軸受損傷周波数、温度・電流との整合で二段階判定する。取付共振、ノイズ、冷却液・熱、個体差には、取付標準化、シールド、防じん・防水、校正・自己診断及び前後センサの相互照合で対処する。監視系は安全インターロックと分離し、通信断でも機械保護を維持する。OT網を分離し、認証・暗号化・権限管理を行う。
3.関係者との調整
保全担当から故障履歴と分解所見、加工・品質担当から運転条件と寸法不良、製造担当から許容停止時間を収集し、FMEAと要求仕様を共同レビューする。IT・OT担当とは接続・保存・セキュリティ、設備・センサメーカーとは設置・保証・保守性を合意する。責任分担、警報レベル別の連絡・停止・点検基準、KPIを定める。1台で実証し、検出精度と投資効果を評価後、変更管理を経て横展開する。
この解答例は約1,100字です。本番では、答案用紙の行数と自分の筆記速度に合わせて、用語の説明や例示を調整してください。
弱い表現を技術者の答案へ直す
| 弱い表現 | 改善した表現 |
|---|---|
| 振動センサで異常を監視する | 軸受箱の振動加速度を測定し、包絡線解析で内外輪・転動体の損傷周波数を監視する |
| AIで故障を予測する | 運転状態別の正常基準と傾向値を用い、温度・電流との整合で見逃しと誤報を抑える |
| クラウドへデータを送る | 通常は特徴量、警報時は原波形を送信し、通信量と診断性を両立する |
| 関係者と協議する | 警報レベル別の停止・点検基準、責任分担及びKPIを関係部門と合意する |
固有名詞を増やすだけではなく、対象、入力、処理、判断、行動がつながるように直すことがポイントです。
提出前の自己点検
- 対象設備と停止した場合の影響を具体化したか
- 複数の計測項目ごとに損傷モードと重要性を書いたか
- 最重要項目を選んだ技術的理由があるか
- センサの位置、取得条件、処理方法及び判定方法を書いたか
- 見逃し・誤報、通信断、センサ故障への対処があるか
- 留意点だけでなく、効率や精度を上げる工夫を書いたか
- 関係者の名前だけでなく、調整事項と合意内容を書いたか
- 設問(1)から(3)まで同じ設備・損傷・目的で一貫しているか
自分の設備へ置き換えて練習する
解答例をそのまま覚えるのではなく、自分が扱ったことのある設備へ置き換えてください。
- ポンプ:振動、軸受温度、吐出圧力、流量、漏えい
- 減速機:振動、油温、油中摩耗粉、回転速度、負荷
- コンプレッサ:振動、温度、圧力、流量、モータ電流
- 搬送設備:振動、モータ電流、チェーン張力、速度、位置ずれ
設備が変われば、支配的な損傷モード、最重要計測項目、センサ位置、異常判定及び関係者も変わります。「自分なら何を最重要とし、なぜそう判断するか」まで説明できれば、類似問題にも対応しやすくなります。
まとめ
令和8年度・機械設計Ⅱ-2-1では、リモートモニタリングの知識だけでなく、設備の故障物理、計測システム設計、誤報・通信断への対処、関係者調整までが問われています。
- 対象設備と停止影響を具体化する
- 計測項目、損傷モード、重要性を対応させる
- 最重要項目は技術的な理由で選ぶ
- 取得・処理・判定・検証を一つのシステムとして書く
- 誰と何を合意するかまで調整方策へ落とし込む
まず解答例を閉じ、同じ問題を自分の設備で60秒の要求整理と骨子作成から解いてみましょう。骨子の作り方を増やしたい方は、骨子練習と解答ネタ整理も参考にしてください。
独学だけでは答案の方向性を判断しにくい場合は、補助的な選択肢として技術士試験対策講座の比較もご覧ください。
