技術士第二次試験の過去問を集めても、年度とテーマを並べるだけでは答案は書けるようになりません。
過去問分析で先に見るべきものは、次の3点です。
- 設問が何を、どの順番で答えるよう求めているか
- その問いで、どの資質能力を示す必要があるか
- 自分の知識と経験を、どのような論文骨子へ変換するか
出題テーマの頻度や継続性も確認します。ただし、目的は次年度の問題を一点予想することではありません。頻出分野に備えながら、未出・低頻度の分野も含めて学習の穴を発見するために使います。
この記事では、令和8年度の機械部門・選択科目「機械設計」の公式問題を例に、次の流れを具体的に実演します。
公式過去問の入手 → 設問要求の分解 → テーマ分類 → 頻度・継続性と未出分野の確認 → 論文骨子への反映
機械部門以外でも、分類名を自分の技術部門・選択科目に置き換えれば、同じ手順を使えます。
最初に確認する:過去問分析の目的は「的中」ではない
過去問から次年度の論点を考えること自体は、学習範囲を整理するうえで役立ちます。しかし、特定のテーマだけに絞るのは危険です。
技術士第二次試験では、専門知識そのものに加え、問題の種類に応じて、課題・解決策・リスク・遂行方法を論理的に示すことが求められます。令和8年度から改訂版コンピテンシーが適用されていますが、日本技術士会は、筆記試験の内容自体に変更はないと説明しています。
したがって、過去問分析の成果は「今年はDXが出そう」といった予想ではなく、次の形で残します。
- 問題の種類ごとの設問パターン
- 問われる立場、対象、条件、成果物
- 答案で示すべきコンピテンシー
- 複数の問題に転用できる上位テーマと技術要素
- 自分が具体的に書けない分野の一覧
- 問題文から論文骨子を作る手順
参考:
技術士第二次試験の問題構成を押さえる
総合技術監理部門を除く技術部門の筆記試験は、必須科目Ⅰと選択科目Ⅱ・Ⅲで構成されます。
| 問題 | 主に問われる内容 | 答案用紙(枚数) | 分析で先に見るもの |
|---|---|---|---|
| 必須科目Ⅰ | 技術部門全般の専門知識、応用能力、問題解決能力・課題遂行能力 | 3枚 | 背景、課題、解決策、リスク、倫理・持続可能性 |
| 選択科目Ⅱ-1 | 選択科目の専門知識 | 1枚 | 定義、原理、比較、適用条件、留意点 |
| 選択科目Ⅱ-2 | 選択科目の応用能力 | 2枚 | 調査・検討事項、業務手順、留意点、関係者調整 |
| 選択科目Ⅲ | 選択科目の問題解決能力・課題遂行能力 | 3枚 | 多面的な課題、重要課題、複数の解決策、残存・新規リスク |
必須科目は2時間、選択科目はⅡとⅢを合わせて3時間30分です。令和8年度の合否決定基準では、必須科目と選択科目(Ⅱ・Ⅲの合計)は、それぞれ60%以上が基準です。
選択科目Ⅱ-1も、短いからといって準備不要ではありません。1枚に収めるため、解答前に「定義→要点→具体例・留意点」の短い骨子を作ります。
参考:
手順1:制度改正後の公式過去問をそろえる
分析対象は、日本技術士会が公開する問題PDFを使います。要約サイトや受験講座の分類は参考になりますが、設問の条件や動詞が省略されることがあるため、最初の入力データにはしません。
令和元年度に現在の試験制度へ改正されているため、まず令和元年度以降を同じ母集団として確認します。2026年時点では令和元年度~令和8年度の8年分です。
時間が足りない場合も、直近5年だけで分析を完結させるのではなく、次の順で進めると効率的です。
- 直近3年を詳しく分解して、現在の設問表現をつかむ
- 令和元年度まで遡って、テーマの反復・変化・未出分野を確認する
- 制度改正前の問題は、同じ表へ混ぜず、専門知識の練習問題として別管理する
分析表に入れる列
表計算ソフトには、少なくとも次の列を用意します。
| 列 | 記入内容 |
|---|---|
| 年度・問題番号 | 令和8年度、Ⅱ-2-1など |
| 問題の種類 | Ⅰ、Ⅱ-1、Ⅱ-2、Ⅲ |
| 前提・背景 | なぜこの業務が必要なのか |
| 受験者の立場 | 技術者、設計責任者、開発リーダーなど |
| 対象 | 製品、設備、システム、業務など |
| 要求動詞 | 抽出、説明、列挙、分析、提案、評価など |
| 必須の個数 | 課題3つ、解決策複数など |
| 制約条件 | 多面的、専門用語を交える、題意に即すなど |
| 上位テーマ | 安全、デジタル、環境、人材、品質など |
| 個別テーマ | 状態監視、CAE、材料置換など |
| 主なコンピテンシー | 専門的学識、問題解決、マネジメントなど |
| 自分の準備状況 | 書ける、要補強、未着手 |
「年度・テーマ・出題回数」だけの表にしないことが重要です。
手順2:設問要求を一文ずつ分解する
ここからは、令和8年度 機械部門・機械設計の公式問題にある選択科目Ⅱ-2-1を例にします。
問題の主題は、機械設備へリモートモニタリングによる状態監視を導入し、保全を効率化する業務です。全文を書き写す必要はありません。まず、問題文を次のように分解します。
| 分解項目 | 読み取る内容 |
|---|---|
| 立場 | 設計部門のリーダー |
| 対象 | 具体的な機械製品または設備を1つ選ぶ |
| 目的 | 機械的損傷・劣化を防ぐ設備保全の効率化 |
| 設問1の成果物 | 導入メリット、複数の重要計測項目、各項目で検出する損傷モード、重要性 |
| 設問2の成果物 | 最重要の計測項目、データ取得方法、計測システムの検討事項、留意点・工夫 |
| 設問3の成果物 | 業務を効率的・効果的に進める関係者調整 |
この分解をせずに「予知保全について知っていること」を書き始めると、次の抜けが起きやすくなります。
- 計測項目は挙げたが、対応する損傷モードを書いていない
- 技術的な説明はあるが、なぜ最重要かがない
- センサの説明だけで、計測システム全体の検討事項がない
- 関係者の名前はあるが、何をどう調整するかがない
問題文の名詞ではなく、「挙げよ」「説明せよ」「列挙せよ」「具体的に述べよ」という要求動詞をチェックリストへ変えるのがコツです。
手順3:テーマを2階層で分類する
テーマは、細かすぎても粗すぎても使いにくくなります。そこで「上位テーマ」と「個別テーマ」の2階層で分類します。
令和8年度Ⅱ-2-1なら、次のように整理できます。
- 上位テーマ:データを活用した設計・保全
- 個別テーマ:リモートモニタリング、状態監視、損傷モード、計測システム
- 技術要素:振動・温度等の計測、データ取得、異常判定、通信、保全計画
- 業務要素:対象選定、重要度評価、関係者調整
「IoT」「DX」「AI」といった言葉が一致した問題だけを同じテーマにすると、つながりを見落とします。例えば、機械設計では次の問題は表現が異なりますが、いずれも「データ・モデルを設計や運用へ活用する」という上位テーマで関連付けられます。
- 令和2年度:CAEを扱う設計者の育成
- 令和3年度:IoT・AIを使うスマート工場
- 令和4年度:コンピュータシミュレーションを使う複合領域設計
- 令和5年度:現場知識を取り込むデジタルツイン
- 令和6年度:デジタル技術を使う全体プロセス最適化
- 令和7年度:CAEと機械学習を使う設計、製造業DX
- 令和8年度:リモートモニタリング、1D・3Dモデルをつなぐ開発
これは公式の分類名ではなく、学習のための編集上の分類です。キーワードの一致ではなく、「何のために、どの技術を、業務のどこへ適用するか」で分類します。
手順4:頻度・継続性だけでなく、設問要求と未出分野を見る
令和元年度~令和8年度の機械部門・機械設計を大きく並べると、出題範囲の広さが分かります。
| 年度 | 必須科目Ⅰの主な題材 | 選択科目Ⅲの主な題材 |
|---|---|---|
| 令和元年度 | 組合せ型ものづくり、持続可能な社会 | 介護機器、国際標準化 |
| 令和2年度 | 技術伝承、省エネルギー | MaaS、CAE技術者育成 |
| 令和3年度 | DX、公益を考えた機械設計 | スマート工場、部品の外製化 |
| 令和4年度 | 火星利用機器、テレワークと三現主義 | サービス適応設計、ゼロエミッション |
| 令和5年度 | エネルギー自給、重大事故対応 | 輸送効率、デジタルツイン |
| 令和6年度 | 機械の小型化、高付加価値化 | 協働ロボット、デジタル技術による全体最適 |
| 令和7年度 | 新技術と公益、精度の相互関係 | レジリエント設計、製造業DX |
| 令和8年度 | ヒューマンエラー、人材流動化 | サーキュラーエコノミー、モデル活用型開発 |
表中の題材名は、公式問題を比較しやすくするために技術士ギルドが要約したもので、公式の分類名ではありません。
ここから言えるのは、「白書に出た一語を追えば問題を当てられる」ということではありません。
むしろ、次の2つを同時に準備すべきだと分かります。
継続しているもの
- データ、モデル、デジタル技術の活用
- 安全、品質、信頼性、公益
- 人手不足や技能・知識の継承
- 環境負荷と資源・エネルギー
- 課題抽出→重要課題→複数解決策→リスクという設問の型
年度によって変わるもの
- 対象となる製品・設備
- 技術の名称
- 社会背景
- 求められる具体性と制約条件
- 同じテーマを知識、応用、問題解決のどこで問うか
頻度の高い上位テーマは、複数問題へ転用できる「優先して深く準備する分野」です。一方、最近出ていないテーマは「出ない分野」ではなく、準備漏れを確認する対象です。
分析表では、各テーマを次の4視点で判断します。
- 複数年度・複数の問題種類で形を変えて問われているか
- 公式の出題内容・コンピテンシーと結び付くか
- 自分が具体的な対象、技術、評価指標を書けるか
- 未出・低頻度でも、自分の選択科目の基礎として外せないか
「出題回数が多い順」だけで学習順位を決めないことが大切です。
手順5:設問要求を論文骨子へ変換する
先ほど分解した令和8年度Ⅱ-2-1を、骨子へ変換してみます。
以下は設問分解を説明するための学習用の仮定であり、公式解答や実際の業務事例ではありません。
骨子例:コンベヤ駆動用減速機を対象にする場合
1.対象と導入目的
- 対象:工場内コンベヤの駆動用減速機
- 導入メリット:突発停止を避け、点検時期を状態に応じて判断しやすくする
- 対象を選んだ理由:停止時の生産影響が大きく、回転機械として状態量を継続計測できる
2.計測項目・損傷モード・重要性
| 計測項目 | 主に検出したい状態・損傷 | 重要性の説明 |
|---|---|---|
| 振動 | 軸受損傷、歯面損傷、アンバランス、ミスアライメント | 進行する機械的異常を早期に捉える中心項目 |
| 温度 | 潤滑不良、過負荷、摩擦増大 | 劣化の進行確認と異常の裏付けに使う |
| モータ電流 | 過負荷、かみ込み、負荷変動 | 駆動系全体の負荷変化を遠隔で追いやすい |
この骨子では振動を最重要とします。ただし、対象設備や故障履歴によって優先順位は変わります。答案では「なぜその設備では最重要なのか」を説明します。
3.振動データの取得と計測システム設計
- センサの設置位置を、軸受近傍など振動伝達経路を考えて決める
- 回転数と対象周波数を踏まえて、サンプリング条件と計測時間を決める
- 据付状態、負荷、回転数が異なるデータを混在させず、正常時の基準値を作る
- 現場側で欠損・異常値を確認し、通信断時もデータを一時保存できる構成にする
- 単一のしきい値だけで判断せず、傾向変化と温度・電流などの別情報を照合する
- 誤警報と見逃しの影響を評価し、点検につなぐ判定ルールを定める
4.関係者との調整
- 保全部門:故障履歴、点検基準、警報後の対応手順を合意する
- 生産部門:停止可能時間と試験導入の対象設備を決める
- 制御・IT部門:データ形式、通信、アクセス権、保存期間を決める
- 設備メーカー:センサ設置条件、保証範囲、診断根拠を確認する
- 管理者:停止損失、導入費、保全効果を共通の指標で比較する
ここまで書けば、設問1~3の要求と骨子の対応関係を確認できます。文章を増やす前に、表の各欄がすべて埋まっているかを点検します。
骨子をコンピテンシーへ照合する
骨子を作ったら、単に技術用語が多いかではなく、必要な資質能力が文章で見えるかを確認します。以下は、筆記答案の骨子で特に確認しやすい7項目です。改訂版コンピテンシーには、このほか「継続研さん」も含まれます。
| コンピテンシー | 骨子で確認するポイント |
|---|---|
| 専門的学識 | 計測項目、損傷モード、取得条件に技術的な対応関係があるか |
| 問題解決 | 目的と制約を踏まえ、重要な問題を明確にしているか |
| マネジメント | 人員、設備、費用、情報、リスクを考慮しているか |
| 評価 | 効果、誤警報、見逃し、運用結果をどう評価するかがあるか |
| コミュニケーション | 読み手が対象・理由・手順を誤解なく追えるか |
| リーダーシップ | 利害の異なる関係者をどう調整し、合意へ導くかがあるか |
| 技術者倫理 | 安全、法令、責任範囲、公衆への影響を優先しているか |
すべての問題で全項目を同じ濃さで書くわけではありません。問題の種類と設問要求に対応する項目を優先し、書いていない能力がないかを照合します。
出題内容と評価項目の考え方は、文部科学省の技術士試験の改定内容でも確認できます。
過去問分析でよくある失敗
テーマ名だけを数える
「DXが何回」「カーボンニュートラルが何回」と数えるだけでは、設問が要求する能力の違いを捉えられません。上位テーマ、個別テーマ、設問要求を分けます。
社会背景から問題を断定する
白書や政策資料は背景知識を補う材料になりますが、過去問が特定資料から作られたと断定はできません。公式問題を起点にし、必要な背景・統計・施策を一次資料で補います。
非公式の答案を正解として写す
日本技術士会の過去問題ページでは問題PDFが公開されていますが、記述式の公式模範解答は掲載されていません(2026年9月21日確認)。市販の復元答案や講座の答案例は、合否を保証する「正解」ではなく、構成・論理展開・具体性を検討するための一例として扱います。
他者の答案を読むときも、最初に公式の設問要求へ戻ります。問題文が要求していない内容を、答案例にあるという理由だけで残さないようにします。
Ⅱ-1は骨子不要だと決める
短い答案ほど、定義・原理・具体例・留意点の配分が重要です。3~5行のメモでもよいので、書き始める前に順序を決めます。
分析に時間をかけ、答案を書かない
過去問分析の完成条件は、きれいな表ができることではありません。少なくとも1問について、設問分解から骨子作成まで行い、時間を計って答案へ展開します。
1問30分で行う実践手順
最初の分析は、次の時間配分で十分です。
- 5分:問題文の立場・対象・要求動詞・個数・制約へ印を付ける
- 5分:上位テーマと個別テーマを分類する
- 10分:各設問の見出しと要点を骨子へ置く
- 5分:コンピテンシーと設問要求の抜けを確認する
- 5分:不足知識を「調べる項目」として分離する
1問目から完成答案を作ろうとせず、まず設問を正しく読む練習を繰り返します。10問ほど分解すると、自分がいつも落とす要求や、具体例を出せない分野が見えてきます。
まとめ:過去問は「予想表」ではなく「答案設計図」にする
技術士第二次試験の過去問分析は、次の順序で行います。
- 日本技術士会の公式問題を、令和元年度以降についてそろえる
- 問題の種類、立場、対象、要求動詞、個数、制約を分解する
- 上位テーマと個別テーマの2階層で分類する
- 頻度・継続性、コンピテンシー、未出分野、自分の準備状況を確認する
- 1問を実際の論文骨子へ変換し、設問要求との対応を点検する
最も重要なのは、テーマを当てることではなく、初めて見る題材でも要求を外さず、専門知識と実務的な判断を筋道立てて示せるようにすることです。
過去問の整理が終わったら、次は背景知識を一次資料で補い、骨子の数を増やします。
- 12ステップ:1「計画」
- 12ステップ:3「資料分析」
- 12ステップ:5「論文作成(選択Ⅱ)」
- 12ステップ:6「論文作成(選択Ⅲ)」
- 12ステップ:7「論文作成(必須Ⅰ)」
- 12ステップ:9・10「骨子練習と解答ネタ整理」
第三者の確認を取り入れる場合は、答案の代筆ではなく、設問要求の抜け、論理のつながり、技術的根拠を指摘してもらえるかを確認してください。
